避妊の失敗、同意のない性交や性被害に遭ってしまった時。望まない妊娠を主体的に終わらせる選択肢があることを知っておきましょう。
産む・産まないも含め、性や身体の決定権は自分自身にあることを意味する「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」という言葉が、2023年あたりからよく使われるようになった。その背景には、同年に「アフターピル(緊急避妊薬)」の薬局での試験販売、「飲む中絶薬(経口中絶薬)」の承認・処方が開始されたことも大きい。望まない妊娠やその可能性がある時、落ち着いて判断できる自分でいるために。両者を取り巻く現状やメリット・デメリットを産婦人科医の宋美玄先生に伺った。
アフターピルを薬局で
「まず、アフターピルは、排卵を抑制して妊娠が成立しないようにする薬です。フランスで1999年に承認された『ノルレボ錠』は世界約50カ国で使われているアフターピルですが、日本で承認・対面診療での処方が開始されたのは2011年と遅く、オンライン診療による処方が可能になったのが19年で、23年になってようやく、処方箋を必要としない薬局での試験販売がスタートしました。
薬局での販売がなぜ、リプロダクティブ・ヘルス/ライツの大きな一歩かと言えば、アフターピルは性交から服用までの時間が短いほど避妊率が高くなるから。医師の診察なしに薬局で買えたほうがアクセスは速くなり、その分、避妊効果も期待できるわけです」
現在は、研修を受けた薬剤師がいて近所の産婦人科との連携が取れるなどの条件をクリアした全国145の薬局で試験的に販売されている。
「試験販売で大きな問題がなければ、いずれは薬局で普通に購入できるようになるはずです。ただ、懸念としては、日本は飛び抜けて価格が高いんです。先日訪れたフランスでは、薬局で4.8ユーロ(約800円)で買えました。ところが日本では、世界で安全に使われている薬であっても一から治験の必要があるために、数千~1万数千円ほどします。高額ゆえに若い世代にアフターピルが届きにくいことは問題点の一つですが、クラウドファンディングで集めた資金をもとに、24歳以下の女性に対しアフターピルの費用を負担する取り組みをしている団体もあります。そのような情報を知っていることが、いざという時に自分を助けてくれるはずです」
●アフターピル(ノルレボ)の妊娠阻止率
72時間を過ぎても、120時間以内ならこんな方法も
子宮内避妊器具「ミレーナ」(通称リング)を性交後120時間以内に挿入すると緊急避妊効果が期待できる。費用は5万円ほど。
2024.06.01(土)
文=今富夕起
写真=深野未季、アフロ