洞口 結局どうなったの?
奥野 真田さんが間に入ってくれて、結果「ポニーテールみたいに結ったらいいんじゃないか」という案に落ち着きました。非常に楽しいやり取りでしたが、各部署で担っている責任がはっきりと分担されているイメージがありました。
髭ひとつとっても、違う部署が決して触れないというか、部署ごとの責任感がとても強いなと。
洞口 勝手にやるなってね。
奥野 そう。プロフェッショナルの私たちがやるから!って、気迫を感じます。
洞口 でも看過できない場面もあったりするし。その辺りのバランス感覚が、真田さんは本当にお見事でしたよね。
「酔って寝入る」から「遊女とセックス」に
奥野 真田さんは、アメリカが求めるものと、日本人の譲れないところ、両方を把握して、ベストバランスに落とし込んでくれるんですよね。
あと僕が驚いたのは、佐伯が遊女の菊と茶屋にいるシーン。当初の台本では、佐伯は菊が弾く三味線を聞きながら、酔って寝入るという設定だったと思います。
洞口 そうそう! 私も完成版を観て「アレ?」と思っていました。
奥野 まぁ、実は色々と変遷がありまして、日本的なものを感じられるセックス描写を入れたいということになったんです。
ただ、そうなるとインティマシー・コーディネーター(性的な場面の撮影をするにあたり、俳優の心身への配慮と、演出意図を両立させるための調整役)が加わる。
そして、「体位はどうするか」とか、「女性蔑視に見えないようにするには」とか、時代考証も含めて、インティマシー・コーディネーターがアイデアを出してくるんです。例えば、「バックからの体位は、男性優位に見えるかもしれない」とか。
で、どう撮るか全然決まらなかったので、僕が「じゃあ僕が菊に首を絞められていれば、男性優位に見えないだろう」って言って(笑)。最終判断は、色々な人が調整をしてくれたおかげなんですけどね。
洞口 あれ、奥野くんのアイデアなの!? それは面白い話を聞きました!
2024.05.10(金)
文=林田順子