「刀がない中で何を武器にして、どうやって大勢の敵に立ち向かい、切り抜けていくのか。それを清家さんが論理立てて説明してくださったので、ひじょうにやりやすかったです。歌舞伎ではゆっくりと刀を一周させればみんな死んでくれるんですが(笑)、映像の世界では一人ひとりと対峙しなければならないので、本当にたいへんです。一つひとつの動きに意味があるので、そこをご覧いただきたいですね」

 

 歌舞伎は舞台の幕が上がれば止まることはないが、撮影での立ち回りは一分を超えると「長回し」といえる。

「歌舞伎は一時間を超える作品であっても、ノンストップなので、アッという間なんですよ。ところが、映像作品での殺陣の一分間となると、かなりの緊張感があります。2~3分ともなれば……。相当長いものになります。その意味では映像の仕事は集中力、瞬発力が求められ、密度が濃い。そうした撮影の積み重ねが2時間近い作品になっていくわけで、ある意味すべてが『一期一会』と呼べるのではないかと思います」

強力な個性派俳優陣

 作品は出会いの積み重ねといえるが、共演者たちも個性派がそろい、作品に厚みを加えている。

 今回、敵役となる「網切(あみきり)の甚五郎」を演じるのは北村有起哉だ。鬼平は甚五郎に再三再四、煮え湯を飲まされるが、甚五郎も鬼平に対して屈託を抱えていることが示される。幸四郎は苦笑いしながら、敵役の存在をこう話す。

©「鬼平犯科帳 血闘」時代劇パートナーズ
©「鬼平犯科帳 血闘」時代劇パートナーズ

「網切の甚五郎、大嫌いです(笑)。本当に悪い奴なんですが、強いわけではなく、だいたい逃げているんですよ。憎たらしいけど、強いのか弱いのか、よく分からないという(笑)。そのあたりは難しい役どころだったと思いますが、北村有起哉さんご自身が『鬼平』に出られることに高揚感を感じていらっしゃって、その気持ちが映画にも表れていると思います」

 加えて、鬼平を支える人間たちが深い印象を残す。密偵・おまさ役には中村ゆり、同じく密偵の相模の彦十(ひこじゅう)を火野正平が演じる。特に今回は、おまさの動きが物語を前に進める原動力となっており、捨て身となったおまさを平蔵がいかに救うのか。物語は加速度を増していく。

2024.04.28(日)
文=生島淳