いろんなことに自分からぶち当たってみることで、選択肢が増えていく

――行き詰った桐子は実家に帰ったり、助監督として他の現場を手伝ってみたり。あれこれアクションを起こして考えを巡らします。

 そうやって休んだり、もがいたり。ペースを変えながらだけど、走り続けることで桐子は自分の走り方を見つけるんですよね。自分からアクションを起こすことで映画を完成させるにあたっての選択肢が増えていって、製作チームとの対話が始まり、物作りの歯車が動いていく。

――桐子が「こうする!」と宣言した後の喫煙所のシーンでは、映画自身が完成に向かって走り出すワクワク感を感じ、観客ながら嬉しく思いました。

 あのシーンは、桐子自身も不器用なりに自分は映画を作っていける、と確信したんじゃないかなと思います。

――山本さんの映画に対するコメントでは『走れない人の走り方』は桐子の、そして出演者の、さらには蘇監督の「眼差し」そのものであるともお話していました。

 桐子はもちろん主人公として描かれていますが、映画製作にかかわるスタッフ、父親や同居人、直接桐子とは関係のない、キャストそれぞれのみんなの目線があって。それぞれの人生があるというのが感じられる作品なんです。

 作品の本筋に直接的には関わらない登場人物にカメラがついていったり。いくつもの登場人物のサブストーリーが描かれるのを見て、映画って、こんなに豊かに、そして自由に撮ることができるんだって思いました。

――映画の中で一番印象に残っているシーンはありますか?

 桐子が実家に帰るときに場面転換で画面全体が黒くなって、顔の部分だけポコっとまるーく切り取られるシーンですね。あの円の中に入りたい!(笑)。

2024.04.25(木)
文=CREA編集部
写真=釜谷洋史
ヘアメイク=kika
スタイリスト=佐藤奈津美