それから僕は神聖かまってちゃんにはまりにはまった

 それから僕は神聖かまってちゃんにはまりにはまった。
 インターネットに落ちてる音源を聴き漁った。
 生配信に辿り着いて、の子ちゃんが生配信をしてたらかならずそこに見にいった。
 仕事もないし家に引きこもってるし、神聖かまってちゃんの生配信ばっかり見てた。
 ずっとパソコン見てた。
 ロックをただで伝えてもらった。
 monoくんにボコボコにされたり、ちばぎんにボコボコにされたり、電車でパソコン片手に叫んでて、サラリーマンに電車から無理やり降ろされたり。
 僕も女装とかしてニコ生で配信したりした。
 売れないのか、とっとみせかけて!
 すごいのは曲じゃなくてパソコンとっとみせつけて!
 謝る時はいつも嘘泣きばっかり。
 初めてテレビに出た時はわくわくしまくった。
 全国のバンドマンに告ぐ。
 おれの時代であるのである。
 ずっとわくわくしてた。
 ナルトって、ラーメンにのせるより正しい使い方あったのか。
 中居君はプロ。
 負けないように頑張ろうと思った。
 ライバルはお笑い芸人じゃなくて神聖かまってちゃんだった。
 好き。
 高円寺でみさこさんに遭遇して写真撮ってもらったりしたっけな。
 どうしようもない大人になった僕は、辛い時も嬉しい時もどんな時も神聖かまってちゃんを聴いてた。
 2021年M-1グランプリ決勝、最初で最後の思い切りだったそのM-1決勝戦は、バトンを海に向かって全力でぶん投げた。バトンは海に消えてった。
 沈むバトンがそのまま世界から消えてなくなるような気がして、僕は急いで海に飛び込んで命からがら拾いなおした。
 拾ったはいいけどこのバトンどうしよう。
 もうちょっと持ってよう。

 M-1ラストイヤー、「ロックンロールは鳴り止まないっ」を聴きながら会場に向かった。
 というか毎年全予選、会場に向かう時は「ロックンロールは鳴り止まないっ」を聴きながら電車に運んでもらった。
 好き。
 M-1ラストイヤー、めちゃくちゃウケたのに準々決勝で落とされた。
 えっまじ!? まじ!? うっそでしょ!?
 そんなセリフが言えた時お友達ってやつがいるのかな。
 僕にはいないな。
 M-1チャンピオンになります!
 最後の嘘。
 全部夢。

 の子ちゃんにメールした。
 正真正銘一世一代。

「の子ちゃん大好きです。ぼくと友達になってよ」

 の子ちゃんから返事が返ってきた。

 ああどうしよう。
 返信どうしよ。
 もー!
 こっちから送ったのに。
 会いに行きたいけど、会っちゃって友達になれない現実が確定されたらどうしよう。
 僕は人と会話ができないから。
 誰とでも仲良くなれるってすごいなあ。
 それだけで幸せ。
 まじつまんねー。
 でもの子ちゃんとはなんとか友達になりたいんだもん。

 神聖かまってちゃんワンマンライブに行った。
 全国ツアーファイナル。

 お台場で、ガンダムの前で会場の行き方がわからなくてうろうろしていると、
 「伊藤さんですか?」
 女性の方に声をかけられて、一緒に写真を撮った。
 「応援してます」
 なんて言われた後、その方に会場への行き方を教えてもらった。
 雨がぱらぱらと降っている。

 会場に入る。
 右手の前から2ブロック目のとこに入る。
 神聖かまってちゃんが出てくる。
 の子ちゃんが近い。
 最初の曲は「美ちなる方へ」。
 ああ、もうだめだ。
 mono君はずっと何言ってるかわかんないし、みさこさんはドラムしびれるし、ゆうのすけも最高。
 泣いた。
 そんで最後に「ロックンロールは鳴り止まないっ」が始まって、
 涙が止まらなくなった。
 嗚咽して泣いた。
 衝撃をもっとくれよ。
 もっともっとくれよ。
 勝手に登場人物をお笑いに置き換えて、勝手に泣いた。
 ずっと泣いてた。
 アンコールの「23才の夏休み」なんて、人間ってこんなに水出るの?くらい泣いた。
 だめだよそんなことしちゃ。

 泣きながらお家に帰った。
 の子ちゃんを遊びに誘おう。
 文面を考える。ああ、どうしよう。
 悩むなあ。
 メールも、この文章も、人生初めて2回めのラブレター。
 てにをはなんてめちゃくちゃだそんなことどうでもいいや。
 ワンツー取られちゃった。
 ラブレターってこんな感じなのか。

 リアムノエルのギャラガー兄弟よりの子ちゃんが好きだ。
 43歳の夏休みまでとりあえず僕は生きる。
 そしたら53歳の夏休みまでまた生きる。
 63歳、流石に生きてるのか?
 わかんないけどそうやって生きてく。
 やるか死ぬかなんだから僕は頑張る。
 僕は神聖かまってちゃんが、全部の音楽の中で1番好きだっ。
 ほんと大好き。
 圧倒的。
 負けないぞっ!
 何があってもランジャタイ死ぬまでやるから神聖かまってちゃん死ぬまでやってね。

伊藤幸司(いとう・こうじ)

1985年、鳥取県出身。NSC時代の同期、国崎和也とお笑いコンビ「ランジャタイ」を結成し、2021年にM-1グランプリ決勝進出。初のエッセイ集『激ヤバ』(KADOKAWA)も話題に。4月より「オールナイトニッポンPODCAST」火曜のパーソナリティを担当中。
X(旧Twitter)@ranjyatai11

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編集部が注目している書き手による単発エッセイ連載です。

(タイトルイラスト=STOMACHACHE.)

2024.04.24(水)
文=伊藤幸司