ところが、『RRR』にはガンディーはまったく登場しない。エンドロールで「八人の革命家・指導者」の肖像が次々と登場する。この人選が作品の隠れた見どころだと筆者は思っているが、そこにもガンディーは含まれていない。ストーリーを考えれば「非暴力」のガンディーを入れ込むのは流れに水を差すことになるという判断があったのかもしれない(ガンディーを軽視しているわけではないことは、ラージャマウリ監督がインタビューで語っている)。それはそれでひとつの考え方として受け止めるべきだろう。ただ同時に、インドの民族運動の全体像を知っておくことも必要であり、そうすることで『RRR』の世界をより深く理解できるのではないだろうか。

 もうひとつ重要なのは、『RRR』で描かれた時代の「前」と「後」だ。当時イギリス植民地政府がインドを統治していたわけだが、そもそもそれはいつから、どうやって始まったのか。一九二〇年以前に、反植民地の武装闘争はなかったのか。インドは一九四七年に悲願の独立を達成するが、そこまでの道のりはどのようなものだったのか。その間に起きた第二次世界大戦はインドにいかなる影響を及ぼしたのか。

 こうした「『RRR』以外のインド」についても実は豊富な映画作品があり、日本公開されたものやDVDあるいは配信で視聴可能なものも少なくない。たとえば、「インドのジャンヌ・ダルク」と呼ばれ、一八五七年に起きたインド大反乱の頃にイギリス植民地政府に対して武装蜂起した王妃ラクシュミー・バーイーの生涯は、何度も映画化やドラマ化されている。一九四七年のインド独立をめぐる大混乱をテーマにした作品もある。イギリスがインドから撤退することが確実になったとき、もうひとつ大きな問題があった。ムスリムがインドとは別に独立国家を要求していたのである。この結果、ヒンドゥー教徒が多い「インド」とムスリムが多い「パキスタン」という二つの国が英領インドから分離するかたちで誕生することになった。これに伴い大規模な民族移動が起き、未曾有の大混乱がもたらされた。これもまた、映画や文学作品で取り上げられてきたテーマだ。

2024.03.12(火)