さらに、インド独立運動に日本が大きく関わっていたことも重要なポイントだ。戦前の日本国内での活動や戦時中のインド国民軍(INA)への支援は知られているが、実は映像面でも注目すべきものがある。そのすべてが作品として完成したわけではないが、その試みを通じて日本はどのような意図を持っていたのか、何が伝えられたかを検証する作業はこれまでほとんど行われてこなかった。

 映画に限ったことではないが、作品が対象とする時代だけでなく、それが製作された時点での背景を理解することも重要になってくる。『RRR』について言えば、インドが急速な成長を遂げ、政府や国民が自信をつけ、対外的な主張を強めている二〇一〇年代後半から二〇年代という時代と無縁ではないだろう。では、インドの政治や社会、宗教で何が起きているのか。それは一昔前のインドと何が違い、これからどのように変わっていくのか。

 本書は、こうした激動のインド近現代史に対して、『RRR』をはじめとする映画を通じてアプローチする試みだ。歴史のすべてを映画で説明できるわけではないし、事実をもとにした作品でもフィクションが織り込まれていることは少なくない。それでも、映像がもたらすインパクトはきわめて大きいことを『RRR』の大ヒットは証明している。映画で取り上げられた人物や事件、出来事を説明することで、インドの近現代史に対する関心が深まり、解像度が高くなるはずだと筆者は確信している。なお、取り上げる作品はインド映画が主体だが、イギリスや日本など他国で製作されたものにも適宜触れていく。


「序章 『RRR』をご存じか?」より

『RRR』で知るインド近現代史(文春新書 1443)

定価 1,100円(税込)
文藝春秋
» この書籍を購入する(Amazonへリンク)

2024.03.12(火)