しかしその一方で、この作品には多くの史実が織り込まれてもいる。映画は冒頭で、拘束されたインド人指導者の解放を求めて民衆が大挙して郊外の警察署に押しかけ、それを植民地警察側のラーマがひとりで撃退するというシーンで幕を開ける。この指導者は、インド民族運動の中で重要な役割を担ったひとりで、実際に当局に拘束されたことがある。イギリスが植民地インドに対する締め付けを強化したのもこの時期だった。一九一二年には、日本とも深いつながりを持つことになる、あるインド人革命家がデリーで英国人総督を暗殺しようとする事件も起きた。作中でラーマとビームが繰り広げた戦いは、インド人の怒りを結晶化させたものと言える。
『RRR』の楽しみ方はいくつもあるが、インド近現代史という観点からすれば、作中での描かれ方と史実を比較することにあるのではないかと筆者は考えている。ここが違う、あれは実際にはこうだとあげつらうのではない。作品で取り上げられた人物やエピソードを入口にして、当時のインドで起きていた反植民地闘争の実態に迫るということである。
『RRR』を見ていて思うのは、シーン毎に歴史や社会、文化の面で重要な意味が込められているという点だ。何気ない背景やアイテムからも、さまざまな情報を読み取ることができるのである。物語の序盤で、ラーマとビームが川の上で火に囲まれた少年を奇想天外なアクションで助け出すシーンがある。そのときに彼らが持っていた三色旗、あれは独立前のインドで考案された民族旗のひとつなのだ(ただし、若干のアレンジは入っている)。
同時に、『RRR』で“描かれなかった”側面についても考える必要がある。この頃、インドの近現代史のみならず世界史レベルでも巨大なインパクトを残す指導者が斬新な活動を展開していた──マハートマ・ガンディーである。一九一五年に南アフリカからインドに帰国したガンディーは、「非暴力」という当時は他に誰も考えなかった手法で、イギリスに戦いを挑んでいた。ガンディー、そして彼が率いていたインド国民会議のもとで、インドの民衆は苛烈な植民地統治に異議申立てを行っていたのである。
2024.03.12(火)