フレディを日本に連れてきてくれた
何万人もの観衆は、ほぼ半世紀もの間、歌い継がれてきたこの曲を通じて、自分たちも時を超え、年代を超え、新旧ファンの垣根も超え、クイーンの、フレディの日本への真情を受け止めて感動する。
たとえ錯覚であるとしても、ブライアン、ロジャーが一貫して大事にし、彼らの心に生きるフレディを日本に連れてきてくれた、という思いに浸る。生のフレディのライヴに間に合わなかった新しい若いファンたちも、フレディのステージを追体験するかのような感覚になったはずだ。
生きてこの場にいることができてよかった――いと麗しき春にあまたの花々が咲くように、観客たちは一斉に心のつぼみを押し開いて、歓喜とともにブライアン、ロジャーたちに感謝の念を送り返す。
会場を埋め尽くしていた激しい活気は、いつしか優しい哀愁に席を譲っていた。そこここに、フレディのプネウマが漂っている。ブライアンやロジャー、アダムの献身によって、ぬくもり豊かで広やかな「不在」が遍満している……。
ライヴからの帰り道、50年来のファンの多くは、ふと、フレディが生前以上に大きな存在になっていると直感したかもしれない。そして、その時、知らず知らずのうちに、自分たちもフレディ伝説の歴史に参加してきたことに思い当たっただろうか。
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平凡社
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2024.02.29(木)
文=米原範彦