「いや、スッカラカンなんかじゃないよ。でも、お前らのこと見てて、やっぱりアイドルだなあって思う時もあるよ。用意されたものしかやらないときもあるでしょ。結局はどれだけ自分で用意できるか。それが滲み出てくるんだと思うよ」

 滲み出てくるもの。その言葉を渡辺さんの口から聞けて私は安心した。芸能界は怖い場所だとも思うけれど、準備して自分の中に積み上げていけば、何かが滲み出てくる。そんな自然の摂理のような、取り繕いようのない正直さもあるのかもしれない。それなら、ほんの少しだけ希望を持てそうだった。少しだけ、信じてみたくなった。

 今後やりたいこと、改めてどんな人になりたいのか。渡辺さんと今後の展望などあれこれ話しているうちに、泣きそうになっている自分に気づいた。それと同時に、真剣に受け答えしてくれている渡辺さんの目も、今の私と同じように見えた。

「私思うんです。今、私も含めて、みんな『解散』が頭の中にあって、その決められた終わりを意識してそれぞれ頑張ったり、不安に思っているはずです。でも、やっぱり、積み上げてきたものが認められて、応援してくれる人がこんなに沢山いる今、終わりよりも、今が一番大切なんです。そんな今、こうやって無力感を感じてしまうのが悔しいんです」

「俺は力になりたいと思ってる。俺にできることはやるから」

 渡辺さんは私の目をまっすぐ見て、こう言った。味方だ。渡辺さんのもとにいる間はきっとずっと味方でいてくれるんだろうと思った。一気に肩の荷が下りた。今日話して本当によかった。一緒に荷物を持ってくれて、新たな戦場を探してくれるかもしれない。でもそこに挑むための武器は自分の力で身に着けないといけない。まだまだ、これから。

解散ノート

定価 1,760円(税込)
文藝春秋
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2024.02.28(水)
著者=モモコグミカンパニー