多様性こそ自然酒の魅力。その年々のテロワールを味わおう

 昭和の時代、国の主導によって工業化された日本酒製造。多くの人がお酒を楽しめるようになった一方で、規格化されたことでその土地の酒蔵ごとのアイデンティティも失われてしまいました。今回パタゴニアプロビジョンズから発売された寺田本家(千葉)と仁井田本家(福島)の自然酒は、伝統のレシピを用いたそれぞれの個性を味わうことができます。

 23年の寺田本家の「繁土 ハンド」は、少し酸味のあるジュージーな甘みが特徴的。

「22年のデビュー時は、結構もう成熟してますみたいな感じがあったんですけど、今回はすごく生感があって、若々しいお酒になったという印象です」(小倉さん)

 30年以上の寺田本家ファンだという東さんは「これまでの寺田本家の中でも、新しいアプローチの出来ですね。香りに多様性があるというか。フレッシュで虹のような美味しさなのでぜひ試してみてほしいです」

 仁井田本家の「しぜんしゅ―やまもり」は、クリアな味わいが特徴。

「奥行きのある上品な味わいと、すっきりとキレのある仕上がりです。23年は雄町の米に変えていて、2022年と味がまた大きく変わっていますね」(近藤さん)

「今年はすごいことになっています(笑)。雄町という米は古いルーツを持つ品種で、うまく使いこなせないと薄いお酒になってしまうことがある。ただうまく使いこなせると、大人っぽいほろ苦さみたいな余韻が生まれてくるんです。この『しぜんしゅ―やまもり』は飲んだときに喉の中がキュッと締まるような心地いい収斂味があって、素晴らしい感性だなと驚きました」(小倉さん)

 米や気候、そこにいる菌など、いろいろな条件が反映されてその年の味が出来上がっていく自然酒。それはまさにテロワール。銘柄が同じでも年々によって味が変わるので、ぜひお気に入りを見つけて毎年追いかけてみてください。

2024.02.03(土)
文=平野美紀子
写真=鈴木七絵