この記事の連載

自分を「牛尾剛くん」というキャラクターにする

──牛尾さんがよく使っているメソッドがあれば教えてください。

 まずは「理解に時間をかける」ことです。

 日本では、「早くできる」ことに全力を注いでいました。「とにかく生産性をあげなければ」「どうすれば早くできるだろう」と常に焦燥感にかられ、アウトカム(成果)を出すことに集中していました。

 ところが、マイクロソフトで世界一流のエンジニアたちに接して、どんなに頭がいい人でも理解には時間がかかるのだということがわかったのです。頭のいい人の理解が早いように見えるのは、時間をかけて基礎を積み重ねているからです。これにより、違う状況になったときも応用が利き、いつでもどこでも即座に使うことができるのだと知ったのは、驚きでした。

 そこで、僕も初歩の学習を一からやり直してみることにしました。「別のやり方で同じことをしたらどうなるかな」と考えながら複数の解法で解いたり、メモリや速度の違いを見たりと、簡単なことからやると、とても楽しいこともわかりました。

 メールひとつ読むのも、英文を読み飛ばさずに時間をかけてゆっくり理解しながら読むように変えたところ、技術やコンテキストがかつてないほどクリアに理解できるようになりました。

──理解に時間をかけることで、結果として問題解決や実装が早くできるようになったのですね。ほかに牛尾さんが実践されているメソッドはありますか?

 僕は自分で手を動かして何かをつくる仕事に関しては「三流」なのですが、「人にやってもらう」仕事を仕切ると、成功することが多かったので、コンサルタントやエバンジェリストとしては評価を受けてきました。

 そこで、何かできないことや困ったことに直面するたびに、自分を「牛尾剛くん」というキャラクターとしてとらえ、タスクに対して客観的に何がどこまでできているか、どこが問題かを棚卸しして、ひとつひとつ解決策を示し、1〜2週間ごとにふり返りを行うようにしたのです。

 さらに客観視するために、自分で解決策が見いだせないところは僕のメンターにも見てもらい、そこで受けたアドバイスを愚直に実行していくことで、9割のことは解決できるようになりました。

──メンターは日本の直属の上司みたいなものですか?

 僕の場合は、友人のクリスにお願いしています。クリスは友人であると同時に、自分がこんなふうになりたいと思う「超一流」の人でもあるので、僕から頼んでメンター役を引き受けてもらいました。

 2週間に1回30分程度のメンタリングをお願いしていますが、そこで未解決の「牛尾剛くん」の問題の相談もしています。ここでクリスから目からうろこのアドバイスをもらったりするわけですが、このとき、もらったアドバイスをそのまま愚直に実行することを徹底しています。

 僕が思うに、成功するメソッドって料理のレシピと一緒なんですよ。レシピ通りに材料をそろえて、レシピ通りの順番でつくれば、たいていおいしいものがつくれますよね。でも、下手に自己流にアレンジしてしまうと、暗黒に陥るじゃないですか。「その通りにやれば成功する」というメソッドがあるなら、その通りにやってみて、それでもうまくいかないところがあれば、そこの部分を「なぜうまくいかないのか」とその道のスペシャリストに聞く。そうやってちょっとずつでも進めていったら、何もしていない人より100倍できるようになりました。

2024.01.29(月)
文=相澤洋美
撮影=三宅史郎