――お父さまの演じる長谷川平蔵で印象に残っているシーンはありますか。
染五郎 「火付盗賊改メ、長谷川平蔵」と名乗るシーンがあり、それを見たときに曾祖父の鬼平、大叔父の鬼平でもなく、「父の鬼平だ」と思って、ぞわっとしました。偉そうに聞こえるかもしれませんが、個人的にイメージしていた鬼平像に父がなっていると感じました。
――それは面白いですね。先ほど、殺陣についてはその鬼平から合格点が出ていましたよ(笑)。
染五郎 父の殺陣の稽古も見させていただきましたが、歌舞伎とはスピード感がまったく違います。ただ、自分が小さいころに父が「劇団☆新感線」の作品に出演し、舞台で殺陣をやっているのを見て「カッコいいな」と思ったことがありました。その記憶があるので、スピード感のある父の殺陣を見られたのはすごくうれしかったですし、自分としても目指していきたいと思いました。
――染五郎さんが10代の銕三郎を演じ、50歳になられた幸四郎さんが長谷川平蔵を演じる。歌舞伎では役柄に対する「ニン」という言葉がありますが、鬼平という役には、年齢からにじみ出る雰囲気というか、歌舞伎のようなニンが必要なんじゃないかと今回感じました。
幸四郎 長谷川平蔵という人は、銕三郎時代はやんちゃだったけれど、火付盗賊改方の長官にまでなる。ただし、人の上に立って物事を悟ったとか、落ち着いてしまったというわけではない。常に前へ、前へと進んでいる人だと感じます。扇の要のような、中心にいるべき人。長谷川平蔵という人自体が主役になるニンなのでしょうね。
――幸四郎さんは、10年前に40歳でも鬼平に挑戦できましたか?
幸四郎 ああ、それは出来ないですね。無理だったでしょう。だから「いま」なんだと思います。
――染五郎さんは、先行するモデルがいないので、銕三郎を自由に造形出来たんじゃないですか。
染五郎 これまで銕三郎にフォーカスした作品がなかったとはいえ、池波先生の作品には書き込まれていますし、そこはしっかりと押さえなければいけないと思っていました。実は、撮影に入ってから、いちばん参考にしたのは吉右衛門のおじさまの銕三郎でした。
2023.12.29(金)
取材・構成=生島 淳