――立ち回りが最初の撮影シーンだったんですか。
染五郎 あのシーンは、むしろ撮影の終盤に撮ったと記憶しています。火野正平さん演じる相模の彦十と、阿佐辰美さんの左馬之助と軍鶏鍋を食べるシーンが最初でした。
――ああ、あの「五鉄」のシーンですか。
染五郎 軍鶏鍋が美味しくて、カットがかかってからも食べていました(笑)。
――親子で長谷川平蔵というひとりの人物を演じるというのは、興味深い設定であり、演出ですよね。
幸四郎 のちのちになり、「鬼平」というすごい名前で呼ばれるようになる男なわけです。息子にプレッシャーをかけるわけではありませんが、今回は銕三郎時代を描くことによって、鬼平と呼ばれる所以を強く感じていただけるんじゃないかと、息子と話をしました。
染五郎 父の作品なので、自分はあくまで父が演じる平蔵の若いころを演じるという気持ちでしたね。同じシチュエーションのシーンがあって、父の方が先に撮影が済んでいれば、それに合わせたことはありました。細かいところでは小道具の扱い方や、おちょこの持ち方は父に合わせたりはしました。
――歌舞伎とはまた違って、映像でのこうした親子の連携というのは興味深いです。お父さまからご覧になって、息子さんの仕事ぶりはいかがでしたか。ご本人を前に言いづらいかもしれませんが。
幸四郎 頑張ったなと思います。先ほど立ち回りの話が出ましたが、殺陣がここまで出来るとは、という驚きはありました。それと、撮影所には本物の職人さんたちが集まっています。その空気をたくさん吸ってもらいたいとは思っていました。
――染五郎さんは、お父さまの鬼平を見て、どんなことを感じられましたか。
染五郎 父と共演するシーンはありませんでしたが、同じ日に撮影があったりして、父が長谷川平蔵の格好でいると、なにか銕三郎の未来を間近で見ているような不思議な感覚がありました。
2023.12.29(金)
取材・構成=生島 淳