11月17日に公開された『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』は、公開の2週目の週末(26日)までで5.1億円の興行収入を記録した。

 アニメシリーズの第6期の映画版として公開された本作は、おなじみ鬼太郎の父親の「目玉おやじ」(本作中では水木にはゲゲ郎と呼ばれる)、そして鬼太郎の育ての親である水木を主人公として、鬼太郎誕生の「謎」を語る。

 本作にはさまざまな点で現代的な「リ・イマジネーション」がほどこされており、それがヒットの一因だろう。世界的に流行している、名作の前日譚であること。ゲゲ郎と水木の「バディ」関係を前面に押し出し、現代的なアニメ表現によるアクションも魅力的であること。『ミッドサマー』『鵜頭川村事件』『ガンニバル』など、近年再び盛り上がりを見せている「因習村」ものであること。

 中でも、ゲゲ郎と水木の改変は重要である。水木しげるの鬼太郎シリーズの「原作」である『墓場鬼太郎』(1960年から64年にかけて貸本漫画として発表され、2008年にアニメシリーズ化)では、鬼太郎が性格のねじくれた奇っ怪な幽霊族の少年であるだけではなく、父は不治の病に冒されて包帯だらけの醜男、水木は鬼太郎に翻弄されるだけの「しがない会社員」であった。バディ・ヒーローとして再想像された二人は本作の人気の要である。

 これらの変更によって、『鬼太郎誕生』は現代の観客に訴えかける要素が満載の映画となった。評価の高さは伊達ではないと思う。

 しかし、この作品を人気作から傑作へと押し上げているのは、その点ではない。

 この作品が傑作なのは(傑作だと思うのだが)、そのような現代的な装いの裏側で、原作者の水木しげるの精神を決して裏切ることがないからである。

 そのことは、偶然なのかどうか分からないが、本作と似たようなモチーフを持ちつつ大ヒットしている、『ゴジラ-1.0』との比較によって浮き彫りになるだろう。

2023.12.10(日)
文=河野真太郎