「あっ、そう? ほんっっっとうに申し訳ない! スタッフにもお詫びしといてー」
「うん、わかったー! じゃあまた改めてー」
「ほんっっっとうにゴメンねー!」
田中さんはひと言も私を責めることなく、ずっとケラケラ笑っていた。普通なら「お前何やってんだよー! 朝から途方に暮れたじゃねーかよー! 自分から待ち合わせの時間と場所指定しといてふざけんなよー!」くらいのことは、冗談交じりにでも言いたくなるだろう。ましてや相手は後輩である。しかしながら田中さんは、怒るどころかむしろ寝過ごしたことを楽しんでいるかのような対応だった。導火線が3万メートルくらいあるのだろう。私は田中さんの優しさに心から感謝して、三たび眠りに就いた。
ゴルフでまさかの大遅刻ふたたび
その数年後、また田中さんと私と、今度は前とは違うスタッフ計4人でゴルフに行くことになった。この時は、田中さんは普段車を運転してもらっているドライバーさんにゴルフ場まで送ってもらうとのことだったので、待ち合わせはせず、それぞれゴルフ場に直接行くことになった。前日の夜、いつものように着替えや道具などをちゃんと準備をし、5時45分に目覚ましをセット。いつもより早めに就寝して翌朝に備えた。
次の日、アラームが鳴るより先に目を覚ました。まだ眠たい目をこすりながら、サイドテーブルにある目覚まし時計を見ると12時半過ぎ! そんなわけはない。だってまだアラーム鳴ってないのだから。半信半疑の気持ちで携帯の電源を入れると、こちらも12時半過ぎを表示している。よって全信零疑。またやってしまった。速攻田中さんに電話。
「田中さん、ゴメン!」
「アハハ、またやっちゃったねー」
「なんでだろう? 自分でも信じらんない」
「っていうか、今回さらに遅いじゃん!」
「ね?」
「いや、『ね?』じゃねーよ! 俺たちもうゴルフ終わって、お昼ご飯食べてるところ。ご飯だけでも来る?」
「誰がそんな遠くにご飯だけ行くかー!」
2023.12.12(火)
著者=上田晋也