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 日本からのアクセスも良く、それでいて異国情緒に満ちた「台湾」。歴史と伝統を感じられる格式高い観光名所から、活気に満ち溢れた最新スポットまで、レトロとモダンが重なり合うような台湾の街にはさまざまな出会いが待っています。そんな楽しい出会いに満ちた街・台湾をこの8月、映画ライターの月永理絵さんが訪れました。

 台湾旅行といえばグルメ。魯肉飯、小籠包、牡蠣オムレツ、かき氷、豆花……夜市で食べられる軽食からデザートまで、街には美味しいものが溢れている。そんな大人気台湾グルメから、今回の旅で見つけたおすすめのごはんを紹介。どれも、街歩きのついでに気軽に食べられるものばかり。

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地元民に愛される蘆洲の「切仔麺」

 台湾で有名な麺といえば、麺に牛肉がたっぷり入った牛肉麺、とろみのあるスープにそうめんのような細麺が入った麵線、台南発祥といわれる擔仔麵などが有名だが、今回の旅でぜひ食べてみたかったのが、台湾でベストセラーとなり、先日日本でも邦訳が刊行されたエッセイ集『オールド台湾食卓記』(洪愛珠著、新井一二三訳)で知った「切仔麺(チェザイミェン)」。家族や身の回りの食について記したこのエッセイ集には、祖母、母、子へと引き継がれた家庭料理から地元民に愛される屋台料理まで、台湾の魅力的な味があたたかく紹介されている。なかでもとりわけ熱を込めて書かれているのが、台北の隣、新北市蘆洲で著者が子供の頃から食べ続けてきた切仔麺だ。

「蘆洲に来たなら、ぜひどこかの店で切仔麺を食べてみてほしい。よその人たちの中には、切仔麺はスープが薄くて、どこが美味しいのかわからない、という人がいる。それは多分、まともな麺をすすって、美味しいスープを飲み、歯応えのいいゆで肉を食べたことがないためだと思う。一度蘆洲に来て、切仔麺を食べると、多くの人は考えを改める」(『オールド台湾食卓記』)。

 こうまで言われたら蘆洲に行かないわけにはいかない。蘆洲へは台北から電車で10〜20分ほど。『オールド台湾食卓記』で家族が代々通うお店として紹介されていた「大廟口切仔麵」を訪ねてみた。有名な湧蓮寺のあたりには、朝早くから市場が立ち、人々やバイクがひっきりなしに通っていく。もともと寺の参拝客向けだった切仔麺のお店は、この付近に十数軒はあるという。

 切仔麺はとにかくシンプルな麺料理だ。こんもりと丸く塊になった油麺に透明なスープをかけ、具はにらともやし、揚げたエシャロットだけ。牛肉麺のような豪華さはないけれど、シンプルで優しい味だからこそ、やわらかい麺と豚骨でとったスープの味がじんわりと体に染みわたる。夜のご馳走として食べるのではなく、朝や昼間にさっと食べたい味だ。

 麺は油麺のほか、ビーフンや米粉で作られた太麺があり、「湯=スープ」か「乾=汁なし」を選ぶことができる。麺のつけあわせに、いろんな種類のゆで肉や内蔵料理、野菜、卵を頼むのもいい。ただしこれらは値段(一皿300円ほど)のわりにかなりの量があるので、頼み過ぎには要注意。台北にも切仔麵を扱う店はいくつかあるが、せっかくなら、切仔麵の本場である蘆洲まで足を伸ばしてみてほしい。

2023.11.27(月)
文・写真=月永理絵