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勘九郎さんも七之助さんも、何でもできちゃう

――昨年、実際に浅草で平成中村座の興行の際に受けられたインタビューを拝読しました。「今回は歌舞伎にもっと色々と委ねてみようかなと思った部分があった」と話されていましたが、実際に“歌舞伎に委ねた”ポイントはどこですか?

 これまでは衣裳と音楽は、僕がやり馴れている、信頼のおけるスタッフにお願いしてきました。それは、歌舞伎の世界の方から見たら新鮮だったと思うのですが、僕からすると、ギリギリでお願いした小道具や衣裳、鬘などがすぐに用意してもらえたり、あらゆる面で柔軟に対応してくださったので「これなら、もっとお任せしてもよかったな」と思い、今回は衣裳と音楽に関しては従来の歌舞伎のスタッフにお願いしました。

 もうひとつ、“平成中村座”という場所でやることが決まっていたので新しいことができるかもと思い、美術に関してはいつもご一緒している桑島十和子さんにお願いしました。

 歌舞伎に挑むとき、自分が持っていくものが少しずつ減っているんです。初めてのときは怖くて色々と用意していきましたが、この先、またやらせていただくことがあればそのとき「さらにもっと減らしてもいいかな」と思っていますね。

――演出家としての宮藤さんからご覧になった、俳優としての勘九郎さんと(中村)七之助さんはどのような方でしょう? この機会に、おっしゃりたいことはありますか?

 いや、もう何も言うことないです、本当に(笑)。特に七之助くんは僕がもっと勉強していれば、もっとすごいことを要求できるのにって、毎回思います。勉強っていうか、演出家としてもっと違うステージに僕がいれば、もっと新しいことを思いつくだろうし、もっとすごいことをやれるのにって。

 僕にあまりにも語彙がないから、七之助くんイライラしてるんじゃないかなって思うくらい、何でもできちゃうんですよ。

――それはすごいですね! 具体的に印象に残っているシーンなどはありますか?

 最初の長屋の場面なんかがそうなんですけど、せっかく台本を書いても、「こうやってほしい」とこちらが思っていることに対して、いきなり正解を出してきちゃう。そうか、もうできちゃうのかって思ったあとは、「最後まで飽きないでくれ」と願うばかりでした(笑)。

 勘九郎くんに関しては、今回はとにかくたくさん出ていますから、それゆえに大変なこともたくさんありましたし、僕も色々注文を出しましたね。でも、例えば【吉原の花魁・桜坂の登場シーン】なんか、場当たりでポンポンと動いて全部お芝居ができちゃうんです。周りの方も、全員がそう。そうすると、こっちが追い付かない。

――今まで数多の俳優さんを演出されてきた宮藤さんでも、そんなふうに思われるんですね。

 だから歌舞伎俳優の方は稽古の日数が少なくて済むのだな、と毎度思います。僕が不安だから、もっと稽古をしたいと思うんですが。

 もしも勘九郎くんと七之助くんが現代劇で、うちの芝居(大人計画)に出るとか、僕が違うところで演出していて、そこに俳優としてきたときには、もっと二人を演出できる気がするんですが……。歌舞伎のフィールドだと、何だかあまりにも対等じゃなくて(笑)。それが面白いんですけどね。

――後篇では宮藤さんが『タイガー&ドラゴン』や『いだてん~東京オリムピック噺~』などでも題材として扱い、ご本人が「大好き」だとおっしゃる“落語”、そしてシネマ歌舞伎の楽しみ方について、さらに深掘りしてお話を伺っています!

宮藤官九郎(くどう・かんくろう)

1970年7月19日生まれ、宮城県出身。1991年より大人計画に参加。脚本家として、2001年に映画『GO』で第25回日本アカデミー賞最優秀脚本賞ほか多数の脚本賞を受賞。以降もテレビドラマ『木更津キャッツアイ』『あまちゃん』『いだてん~東京オリムピック噺~』など話題作の脚本を手掛ける他、監督、俳優としても幅広く活動。脚本を担当するドラマ『不適切にもほどがある!』が24年1月に放送スタート。これまでに『大江戸りびんぐでっど』(作・演出/09年歌舞伎座)をはじめ、渋谷・コクーン歌舞伎『天日坊』(脚本/12年、22年)、六本木歌舞伎『地球投五郎宇宙荒事』(脚本/15年)などの歌舞伎作品を手掛けてきた。第4作となる今作で、初めて平成中村座で新作歌舞伎の作・演出に挑戦した。

『唐茄子屋 不思議国之若旦那』(とうなすや ふしぎのくにのわかだんな)

2024年1月5日(金)より、新宿ピカデリー、東劇ほか全国にて公開!
作・演出:宮藤官九郎
出演:中村勘九郎、中村獅童、中村七之助 ほか
https://www.shochiku.co.jp/cinemakabuki/lineup/2390/

次の話を読む「若旦那が花魁を思い出してデレデレと」 宮藤官九郎が平成中村座『唐茄子屋』 で苦労した“落語”の演じ方

2023.12.05(火)
文=前田美保
撮影=石川啓次