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江戸と自分をスムーズに繋ぐのが“落語”だった

――まるですべてのキャラクターが当て書きされたようでした。ベースになっているのは落語の「唐茄子屋政談」ですが、最初から落語を題材にしようと思われていたのですか?

 僕はこの年齢のわりには歌舞伎を観ているほうだと思うのですが、とはいえ、そんなに深く学んでいるわけではありません。そこで、江戸を舞台にしたものを作ろうと思ったときに、自分の中で一番スムーズに変換できるのが、やはり“落語”だったんです。

 主人公はどんな人間がいいかなと考えると、やっぱり落語の中の若旦那とか与太郎といったタイプが、僕の気持ち的にも一番乗れる。これだったら、そんなに勉強も要らないだろうし、と(笑)。僕が色々と試行錯誤しながら歌舞伎に関わるのはこれで4作目なのですが、落語で勘九郎くんにやってもらうなら若旦那の役、それも「唐茄子屋政談」の若旦那がいいなと思いました。

――勘九郎さん=若旦那、という図式はずっと宮藤さんの頭にあったのでしょうか?

 以前、『人情噺 文七元結』で勘九郎くんが手代文七の役をやっていたのを観たんです。それですごくいいなと思ったという経緯があり、「唐茄子屋政談」の若旦那をベースにしようと思いました。

 でも、それをそのままやったのでは面白くないので、「不思議の国のアリス」の要素を入れようかなと。大きくなったり小さくなったりするところを取り入れれば、息子さん二人も出演できそうなので、どうですかと投げたら、それに乗ってもらえました。すごく良かったと思っています。ただ、この先はもう少し“歌舞伎”らしいものもやりたいですね。

――具体的には、どういった演目を頭に描いていらっしゃるのですか?

 人がいっぱい死んじゃうようなのがいいですね(笑)。例えば、『女殺油地獄』みたいな悲惨なお話とか、歌舞伎らしくていいんじゃないかと思います。

2023.12.05(火)
文=前田美保
撮影=石川啓次