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 ひとつの肩書きでは括ることができない人物――。それが、宮藤官九郎さんです。『大人計画』という劇団の劇団員であり、脚本家でもあり、監督・俳優としても活躍。さらにはラジオパーソナリティ、演出家、作詞家、作曲家、放送作家、そしてパンクコントバンド・グループ魂のギタリスト……と、その活動の幅広さは他に類を見ないほど。

 これまでもテレビや映画のみならず、数多くの舞台作品の脚本・演出を手掛けてきた宮藤さんですが、実は【歌舞伎】と、とても縁が深い方。昨年、浅草で行われた平成中村座では『唐茄子屋 不思議国之若旦那』という、落語をベースにした新作歌舞伎の作・演出を手掛けて話題を集めました。その作品がこの度シネマ歌舞伎となって、新春1月5日(金)より公開されることに! 改めて、宮藤さんに作品についてお話を伺いました。(全2回の前篇。後篇を読む


荒川良々くんには、悪いことしちゃった(笑)

――歌舞伎座やシアターコクーンなどで上演される歌舞伎の脚本を書かれたり、演出に携わったりしていらっしゃる宮藤さんですが、平成中村座で歌舞伎を手掛けたのは初めてだとか。「シネマ歌舞伎」となった本作をご覧になった感想を改めてお聞かせください。

 かなり手を尽くしてくださったんですけど、荒川(良々)くんの声が嗄れていましたね(笑)。

 歌舞伎俳優の方は、声を嗄らさないように特殊なコツを身に付けていると思うのですが、荒川くんは全力でやってしまったんだと思います。稽古の段階から「大丈夫?」と心配していましたが、よく考えてみたら台詞量がすごく多かったんですよ。中村勘九郎さんの次くらいにしゃべってるんじゃないかな。なんか悪いことしちゃったなって思ってしまいました(笑)。

――確かに、歌舞伎俳優の方は常にマイクなしで舞台に立たれるので、発声はお手のものですからね。

 収録を、もう少し早いタイミングで撮れたら良かったですね(笑)。昨年の平成中村座は10月、11月の2カ月公演で、11月は中村獅童さんの役を中村橋之助くんが演じたのですが、シネマ歌舞伎では獅童さんが演じたバージョンが収録されています。獅童さんはアドリブも多く入れて、完全に自分のものにしちゃっていますね。面白いので獅童さんには「そのまま演じてください」とお願いしました。

――今回のシネマ歌舞伎を拝見した際に、獅童さんが演じられている大工の熊さんが、客席全体を巻き込んでいたのが印象的でした!

 劇場のお客さんを“沸かす”というパワーと、「自分が出てきたからには!」と、会場の空気を全て持っていく感じについては「獅童さんがやる前提で台本が書かれているね」とみんなに言われました。「橋之助くんがやったらこれはどうなるだろう?」と思いましたが、結果的にどっちの熊さんも面白かったからいいかな、と。

2023.12.05(火)
文=前田美保
撮影=石川啓次