歌舞伎俳優の市川團子さんにとって“今”は子役から大人の役へ転換する大切な時期。大きな挑戦を重ねながら、磨かれるほどに澄んだ輝きを放つ、19歳の等身大に迫る。


体現することで知る伝統として受け継がれるもの

 大学で美術や音楽、演劇映像などを学んでいる市川團子さんは現在、19歳。歌舞伎俳優と学業という二刀流の道を歩んでいる彼は、今年6月の歌舞伎座『傾城反魂香』の土佐修理之助役や、8月の納涼歌舞伎『新・水滸伝』のオープニングを一人芝居で飾る彭玘役などで、大きな注目を集めている。その活躍ぶりを称賛すると、恥ずかしそうに語った。

「知識がとても浅いので、まずは古典をちゃんと勉強して、もっと歌舞伎を知らなければなりません」

 そんな團子さんは今、子役から大人の役に切り替わる修練の日々。その真っ只中にありつつも、確実にその存在感を示しているのだ。

 團子さんが歌舞伎の世界に入ったのは2012年、8歳のとき。本名である香川政明の人生に市川團子という新たな一面が加わった。その後歌舞伎役者として歩んできた彼にとってターニングポイントだと明言したのは2020年1月に歌舞伎座で勤めた『連獅子』だ。

「中学2、3年くらいになって自分の演技について考えるようになったのですが、その時に登竜門のような作品である『連獅子』の仔獅子を勤めさせていただきました。中日を過ぎたころに気づいたのは、親獅子が仔獅子に合わせた絶妙なタイミングや位置で踊ってくださっていたということ。それまで一人で踊る経験しかしていなかったので、自分にとって新しい課題を見出すことができました。

 これは余談ですが、大学の授業で自画像が課題として出されたときに、香川政明としての自分と、『連獅子』に扮した市川團子を並べて描きました。それほど今の自分と切り離せない経験だったと思います」

 このときの『連獅子』は澤瀉屋の型で上演された。澤瀉屋とは團子さんが属する一門の屋号。その澤瀉屋には継承しなければならない伝統が数多く存在する。祖父の市川猿翁さんは3代目市川猿之助を名乗っていたときに、古典の通し狂言の復活を手がけ、さらに従来の歌舞伎とは異なる演出をした「スーパー歌舞伎」を創り上げ、2010年にはこれらの演目をお家芸として「三代猿之助四十八撰」を撰した。團子さんはそれに属する作品である『新・水滸伝』で新たな経験をしている。

「今回の彭玘のお役を研究するにあたって、じいじ(市川猿翁)が演じていたスーパー歌舞伎のお役を参考にしようと、その映像を改めて見ました。じいじの演じるスーパー歌舞伎でのお役は、彭玘とは年齢や立場が違うけれど、セリフの言い回しが共通していて、古典にベースがあることに気がつきました。たくさんの古典作品を経験すれば、自然に型が身について、スーパー歌舞伎のような現代的な作品にも生かされるのだと思いました」

 彼なりに創り上げた彭玘が語る台詞はダイレクトに伝わってくる。

2023.11.26(日)
Text=Shion Yamashita
Photographs=Yuki Kumagai
Styling=Satoshi Takano
Hair & Make-up=Yoko Fuseya
Backdrops=Backgrounds factory

CREA 2023年秋号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

永久保存版 偏愛の京都

CREA 2023年秋号

永久保存版 偏愛の京都

定価950円

『CREA』でいよいよリアルな国内旅の真打「京都」登場。グルメ、アート、カルチャーなどを偏愛目線でお届けします!