六波羅蜜寺の空也上人よりもワイルド
宝物殿に入り、月輪寺の空也上人像を見た瞬間、すごく驚きました。六波羅蜜寺の空也上人像は、口から出た1本の針金の上に「南無阿弥陀仏」を表す6体の小さな仏が並んでいますが、こちらの空也上人の口からは2本、「南無阿」と「弥陀仏」に分かれて飛び出していたんです。しかも月輪寺の空也上人は目をカッと見開いていて、薄目を開けた六波羅蜜寺の空也上人よりもワイルド。空也上人は月輪寺の近くにある滝で修行をされたそうですし、荒行に耐えた厳しい顔を、よりリアルに表現されたんでしょうね。
仏像が大好きになった小学4年生のときから六波羅蜜寺の空也上人像を何度も見ていますが、見るたびに「思っていたより小さいな」と思うんです。だって120センチくらいしかないですから。月輪寺の空也上人像も、やっぱり小さかった。小柄に作るルールがあったんでしょうかね?
平安時代に京都で疫病が流行ったときに、空也上人は質素な衣を着て、頭に鹿の角がついた杖を握って、町中で鉦を鳴らして踊りながら念仏を唱えていたわけです。そのスタイルは、現代のストリートシンガーやラッパーのハシリともいえますよね。
【清滝】月輪寺(つきのわでら)
山深くアクセスが困難な場所ながら、空也上人立像、阿弥陀如来坐像を含め重要文化財に指定される仏像が8体も。湧水「龍奇水」や4〜5月にかけて葉から雫を落とす「時雨桜」も人気。
所在地 京都市右京区嵯峨清滝月ノ輪町7
電話番号 075-871-1376
拝観時間 10:00~14:00 ※雨天時参拝不可 ※冬季参拝休止
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みうらじゅん
イラストレーターなど。1958年京都市生まれ。『マイ京都慕情』(新潮社)、『見仏記』シリーズ(角川文庫/いとうせいこうと共著)など著書多数。
2023.11.26(日)
文=臼井良子
写真=平松市聖