白い襖に命を吹き込み極楽浄土へと誘う

60面もの襖に生き生きと葉を広げ、蓮花が咲きほころぶ青蓮院門跡「華頂殿」の襖絵。描いたのは現代の絵師、木村英輝さんだ。
「華頂殿の真っ白な襖を見たとき、これに絵を描きたい、自分の絵でより魅力的な空間を生み出したいと願ったんです」と木村さん。

「最初は壁にはみ出すくらい襖いっぱいに蓮を描こうとしたけれど、襖絵は座して見るものだからその目線を意識してみてはと門主(住職)に助言されて。
また、当初は命の芽生える葉の時期、花の盛り、枯れた冬の池と、四季を通して輪廻する命の姿を描こうと考えていましたが、阿弥陀経には枯れるという概念がないと聞き、枯れ蓮の代わりに幻想的な青い蓮を生み出しました」

襖は建具でありアートでもあるが、視覚的にも思想的にも建物との調和が欠かせないと気付かされる制作秘話。
青蓮院門跡のほかにも、京都には見事な襖絵を有する古刹が多い。


木村さんは東山・智積院の長谷川等伯・久蔵親子が描いた襖絵が好きだと言う。
「自然をあのように豪華に描くなんてすごいなぁって思います」
【東山】青蓮院門跡(しょうれんいんもんぜき)
所在地 京都市東山区粟田口三条坊町69-1
電話番号 075-561-2345
拝観時間 9:00~17:00(16:30受付終了)
拝観料金 600円
http://www.shorenin.com/
●教えてくれたのは……
木村英輝(きむら・ひでき)さん
壁画絵師
1942年大阪府生まれ。ロックイベントのカリスマプロデューサーとして長年活躍し、還暦を迎えるころに本格的に絵筆をとる。京都市動物園の壁画など国内外で手がけた作品は250以上。現代の琳派と称され、キーヤン(Ki-Yan)の愛称で親しまれる。
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2023.10.16(月)
文=嶺月香里
写真=打田浩一、橋本 篤
CREA 2023年秋号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。