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主役はウシだけではない

 取組が進むと、もう「つなっこ」ではなく、人間に綱を引かれなくても自分で闘うことができるウシたちが登場する。相撲でいえば小結あたりだろうか。新牛よりひとまわり体の大きい5歳の赤牛「天神(てんじん)」、そして昨年デビューした4歳の黒いウシ「輝黒竜(きこくりゅう)」が入場する。「輝黒竜」とは、このあたりの名産、錦鯉の柄のことらしい。

 ウシの鼻につけていた鼻綱がスルッと抜かれ宙を舞うと、それを合図に天神が輝黒牛に猛然と向かっていく。角で押された輝黒竜が耐えて体をよじる。一進一退の攻防の末、輝黒牛がぐいっと押し返したところで引き分けの手がサッと上がった。

 実はこの瞬間に、ウシ対ウシからヒト対ウシの攻防に変わる。勢子の一人が闘牛の後ろ足に綱をかけ、それを引っ張り動きを止める。と、同時に「鼻とり」と呼ばれる人がウシの急所である鼻の穴に指を突っ込み、顔を上にあげておとなしくさせる。そこでどっと勢子がウシに取りつき、あっという間に両牛を引き離す。

 ぶつかり合っているウシの鼻の小さな穴に指を突っ込んだり、足に網をかけたり、一歩間違えれば大けがにもつながるようなことをやってのける勢子たち。その勢子たちの熟練した早業を堪能するのも、日本の闘牛の見所のひとつなのだ。おとなしくなったウシたちは、しずしずと会場を去っていく。

 後篇では、いよいよMVPの横綱級のウシたちの激闘と、全国で唯一、小学校の校庭で育てられている「牛太郎」の熱い闘いをご紹介します。

小千谷闘牛場

入場料 2,000円(中学生以下は無料)
交通 関越自動車道小千谷IC下車20分 駐車場無料(約300台)
JR上越線小千谷駅前からシャトルバス(片道500円)あり。往復各1便
所在地 新潟県小千谷市小栗山2453
開場日 ※5~11月まで月1回開催
https://www.tsunotsuki.com/

錦鯉の里

「泳ぐ宝石」と呼ばれる日本の錦鯉。「錦鯉の里」には錦鯉の歴史や品種、飼育方法などが展示されている。入場者が鯉にエサを与えることもできる。指に吸いつかれて驚くが鯉の口には歯がないので痛くはない。

交通 JR上越線小千谷駅から越後交通「循環線内回り」バスで「サンプラザ前」停車所下車、徒歩3分
開館時間 3~11月:9:00~18:00/12~2月:9:00~17:00 ※年末年始休館
入館料金 大人520円、小中学生310円(小学生未満は無料)
所在地 新潟県小千谷市城内1-8-22

白石あづさ

ライター&フォトグラファー。3年に渡る世界放浪後、旅行誌や週刊誌を中心に執筆。著書にノンフィクション「お天道様は見てる 尾畠春夫のことば」「佐々井秀嶺、インドに笑う」(共に文藝春秋)、世界一周旅行エッセイ「世界のへんな肉」(新潮文庫)など。「おとなの週末」(講談社BC)本誌にて「白石あづさの奇天烈ミュージアム」、WEB版にて「世界のへんな夜」を連載中。X(旧Twitter) @Azusa_Shiraishi

次の話を読む闘牛を校庭で育てる小学生!? 男前すぎる「横綱牛」たちの 雄姿とつぶらな瞳にもうメロメロ!

Column

白石あづさのパラレル紀行

「どうして世間にはこんな不思議なものがあるのだろう?」日本全国、南極から北朝鮮まで世界100か国をぐるぐると回って、珍しいものを見てきたライターの白石あづささんが、旅先で出会ったニッチなスポットや妙な体験談をご紹介。

2023.10.28(土)
文・撮影=白石あづさ