ただ現代社会で起きていることを小説にするときは、あれこれ資料を読んでそれをつなぎ合わせて書きますが、それをもう一度、想像力で飛ばす作業が必要なんです。もう一段、鋭くしないといけない。

 今回の表題作でいえば、宗教2世の女子高生はひどいアトピーなんですけど、それを単純に“過去世で呪われているから”とするのではなくて、もう一歩踏み込む――ここでは、周囲の大人の信者たちから、過去世で子供を焼き殺したからアトピーなんだ、と思いこまされているとしました。資料のままではなく、小説の中で魅力度が上がってほしい、キラッと光るものが欲しいので、そういう描き方をします」

 宗教2世のほかに、本作では中国のウイスキーバブル、ストーカーまがいの過激な“推し活”、暴力をいとわない連続強盗団が取り上げられる。どれもまさにいま、世間で起きていることで、雑誌掲載の時期を考えると、どうしてこれほど早く時代の半歩先をゆく話題を小説の題材にすることができるのか、驚くばかりだ。

「“池袋用の頭”があるんですよね。たとえば、日本のヴィンテージ・ウイスキーに1本8000万とか1億の値段が付いたというニュースを目にすれば、え、なに? と思うじゃないですか。そういう話に出逢うと、あ、これ使えるなと思う。

 実生活の中でアンテナを張って、日ごろからネットニュースを見たり新聞を読んだりしていて、これは面白い、と反応している。いつもネタを探している感じですね」

 それにしても、シリーズ19冊×4本なので、すでに76本も書いている。アイディアが尽きることはないのだろうか。

「アイディア云々ではなくて、世界はずっと変わり続けているわけで、世界が変わるということはなにかまた新しいものが出てくるということでしょう。

 実際、締め切り前にネタがなくて困ったということはないですね。なにかちょっと面白い話があったら、これで書いちゃえ、ですぐ書ける(笑)。ヘンな言い方ですけど、このシリーズのネタは“入れ食い”みたいな感じなんです。たとえば今回文庫になった『炎上フェニックス』で取り上げた“パパ活”の話は、たまたま入ったカフェで隣の席の男女の会話が聞こえてきて書いた話です。このシリーズに関しては、ネタで悩むことはない。この先も、次の1年の間に面白いことはいっぱいあるだろうなと思いますね。

 こういう連作のシリーズって、面白過ぎてもいけないんですよね。面白過ぎると、そこでピークアウトしてしまうから。そして、美味しいパスタみたいなもので、煮込んだりしない。茹でたパスタをトマトソースでささっとあえて、チーズをぱらっとかけたら出来上がり、みたいなほうが、読む方もするする読めるし、面白いと思うんです。

 だから、これが書きたかったテーマです、みたいなことは一切ないです。リラックスして、新しい素材をはねつけることなく取り込めばいい。いまは時代が荒れてきているので、素材としては面白いものが増えているかもしれないですね」

神の呪われた子 池袋ウエストゲートパークXIX

定価 1,870円(税込)
文藝春秋
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2023.10.02(月)