『異世界転生マンガ』は現代を生きる読者に寄り添っている

 石田衣良さんが「異世界転生マンガ」にハマっているという。読むだけではなく、最近ではマンガの原作にまで手をつけ、この秋からは連載が開始されるというプロのハマり方。なぜそんなことに?

「最初はコロナ禍のステイホーム時に、YouTubeをザッピングしていたら引っかかっちゃったんです。タイトルも覚えてない作品だけど、ネタの畳み掛け方や大喜利的なネタの応酬が今っぽくて、面白かったんですよ」

 この10年ほどで「異世界転生マンガ」は最も盛り上がっているジャンルとして完全に定着した。

 「小説家になろう」などの投稿サイトでも人気のジャンルが、マンガやアニメになることで、より幅広い読者を惹きつけた。

「いま、現実の世界がつらいじゃないですか。コロナの本質的な収束は見えず、国内は低成長が続き、世界中がきな臭い。せめてマンガの世界はストレスなく、楽しみたい。『異世界転生マンガ』はそんな現代を生きる読者に寄り添った作風なんだと思います。実際、子どもや若い世代だけでなく、30~40代でハマっている大人が、男女ともに多いんです」

 共感性の高い導入から、現代人がふとした拍子にまったく違う世界へと転生し、敵や障壁が立ちはだかっても、主人公は順調に成長を続け、困難も克服していく。

「読者が自己投影しやすい主人公が設定されていて、転生後に成功、勝利、結婚などの幸せを勝ち取っていくのが王道パターン。ご都合主義と言えば確かにそうだけど、それは読者の気持ちに寄り添う優しさなんです」

 現在石田さんは、自ら企画立案した「異世界転生マンガ」の原作に取り組んでいる。

「マンガは制作にスピード感があるから、作品に時代を反映しやすい。小説や映画、アニメだとそこまでのスピード感は出せないので、マンガ原作も楽しいですよ」

 マンガのジャンルとして大傑作は生まれにくいが、誰もが楽しめる作品が数多く生まれる。成熟したエンターテインメントとはそういうものだと石田さんは言う。

「そもそも小説やマンガは娯楽であって、やれ文芸だ、やれアートだという高尚な顔をした難解な作風ばかりがもてはやされるのもおかしい。『異世界転生マンガ』のように広く受け入れられているジャンルこそが、現在のクリエイティブの“中心線”のはずなんです」

2022.11.22(火)
Text=Tatsuya Matsuura
Photographs=Wataru Sato

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※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

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