イーロン・マスクが社運を賭けて“本気の接待”を仕掛けた、日本を代表する2人の“超大物社長”とは〉から続く

 イーロン・マスクが率いるテスラは、今でこそトヨタを時価総額で抜き世界トップの自動車メーカーだ。

 しかし、過去には2度にわたる倒産の危機を経験。もともとストレス耐性が高いマスクであっても、1度目の倒産危機となる2008年は、人生で一番つらい年だったという。日本では発売初日にAmazon1位となった公式伝記『イーロン・マスク』(ウォルター・アイザックソン著 井口耕二訳)から、当時の修羅場エピソードを紹介する。

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 2008年は、人生で一番つらい一年になった、と述懐しているイーロン・マスク。テスラの経営がまだ軌道に乗らず利益が出せないなか、タイミング悪くサブプライムローンに発する金融危機が起きる。テスラとマスクの資産はほとんど尽きていた。

 マスクの当時の婚約者によると、この時期のマスクは、毎晩ぶつぶつとひとりごとを言っていたし、手足を振り回して叫ぶこともあったという。

「寝ているのに突然叫びだし、私にしがみついてきたりするんです。恐怖ですよ。彼は追いつめられていて、私はびくびくでした」

 ストレス耐性が高いマスクも、もう少しで限界を超えるところまで行ってしまっていたのだ。マスクは当時を振り返る。

「帽子からうさぎを出すような魔法をこなさなければならない、一度ならず二度、三度とくり返さなければならないんです。そんな状況で、毎日毎日、朝から晩まで仕事をしていました」

 めちゃくちゃ太ったかと思うと、一気に痩せ細る。背中は丸くなり、足の指に力が入らなくて歩きにくい。そんな状態でも、マスクはすさまじい集中力で精力的に仕事を進めた。

 しかし遂に、このままいくと12月のクリスマスイブにはテスラの資金が尽き、倒産という事態まで追いつめられた。会社にもマスク個人にも、次の給与を払えるだけのお金はなかった。

2023.09.29(金)
文=「文春オンライン」編集部