ツイッターを買収しXと改名、世界から注目を集めるイーロン・マスク。電気自動車(テスラ)、宇宙開発(スペースX)……人類の歴史に残るイノベーションを起こした天才は一方で、不可解な言動でも知られている。

 自身の人生について、マスクは「私は、苦しみが原点なのです」と語る。知られざる壮絶な半生を明かした初の公式伝記『イーロン・マスク』(ウォルター・アイザックソン著 井口耕二訳)が本日、世界同時発売された。今でこそパワフルに振る舞うマスクだが、幼少期はいじめや虐待に苦しんでいたという。

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 やられたらやり返さないと生き残れない——そんな治安の悪い南アフリカで生まれ育ったイーロン・マスク。

 機関銃による銃撃やナイフによる殺人が日常茶飯事な環境。少年だったマスクも、電車から降りた際に、頭にナイフが刺さって人が死んでいる場面に遭遇したことがあるという。

 12歳のときに、マスクはサバイバルキャンプに放り込まれた。軍事教練さながらで、配給される水も食料も少なく、他人から奪うことが奨励された。しかも2グループに分かれて戦わねばならず、何年かに一度は死ぬ子どもが出た。

「手荒にしてくるやつがいたら顔の真ん中に思いきりパンチをたたき込めばいい」

 当時のマスクは体も小さくうまく立ち回れず、2回殴られ、キャンプ終わりには5キロも体重が減った。ちなみに2回目の参加はもうすぐ16歳になるときだった。このとき身長は180センチあまりへと伸び、クマのように体もがっちりし、柔道も習っていた。マスクはこう振り返る。

「手荒にしてくるやつがいたら顔の真ん中に思いきりパンチをたたき込めばいい、そうすれば二度と手荒なまねはしてこないとわかりました。たこなぐりにされても、そこできつい一発をお見舞いしてやれば、次にまたということはないんです」

 学校はつらかったそうだ。誕生日の関係からクラスで一番幼く、体も一番小さかった。さらに、人間関係をうまくこなすことができなかった。

2023.09.14(木)
文=「文春オンライン」編集部