夢中になって「元祖パイカ玉きしめん」を食べていると西村店主が突然、厨房を指差した。そこには金色のアルミ鍋が4つ並んでいた。
深いコクの理由は…?
鍋の中には右から厚肉、肉、パイカ、特製煮玉子が入っていた。使用する豚肉はすべて国産肉を使う。足りなくなればまた途中で作って追加していく。また「パイカ」の煮汁が旨味の宝庫なので、「厚肉」や「肉」の煮汁にも加えて炊いているという。
また、お客さんに提供する「厚肉そば」「肉そば」「パイカ」のそばつゆにはそれぞれの煮汁を足しているという。どうりでつゆのコクがすごい訳である。
そして西村店主の開発のパワーは留まるところを知らない。「今度は豚のバラ肉や他の部位も炊いて、独自の豚肉そばも作っていきたくて試行錯誤している」という。梅のおにぎりを追加で注文して、「元祖パイカ玉きしめん」をあっという間に完食してしまった。
「素敵な豚肉を用意してお待ちしております」
最後に西村店主からメッセージをいただいた。
「食に携わってきた長い経験の中で、食に対する自分の思いが膨らんでいき、今年ようやく独立することができました。お世話になった豊しまの山崎さんには感謝しています。これからは豚肉をもっと研究し、そば・うどんともっと身近になるような新しいメニューをどんどん考えていきたいと思います。飯田橋や江戸川橋、春日に行かれる際には是非『豊しま』へ。そして、神保町・小川町にお越しの際には『豊はる』に是非お越し下さい。素敵な豚肉と天ぷらを用意してお待ちしております」
記録的な猛暑の夏も終わりを告げようとしている。再訪を告げて店を後にした。「豊はる」の西村店主はそのうち豚肉と会話する男と言われるかもしれないと思った。「元祖パイカ玉きしめん」という素敵な一杯に出会うことができた。
余談だが、立ち食いそば愛好家なら気が付くかもしれないが、男性スタッフは中野駅南口にあった「中野屋」で40年以上店長をされていた磯正治さん、また女性スタッフは桜木町「川村屋」で23年間勤務されていた久元陽子さんだった。帰り際、中野界隈の昔話や「川村屋」再開の話に花が咲いた。時の流れを感じる素晴らしい訪問だった。
INFORMATION
「豊はる」
住所:東京都千代田区神田小川町3-11-10
営業時間:月~金 6:30~18:00
土 6:30~15:00
定休日:日曜日
2023.09.15(金)
文=坂崎 仁紀