入口すぐ左にある券売機を眺め、新発売したメニューを探すとすぐに発見した。「元祖パイカ玉きしめん」(590円)の食券を買い、店の奥に進んでいき、さっそく注文してみた。そして注文したきしめんを作る間、西村店主から店に対する思いなどを聞くことにした。
ラーメン屋、立ち食いそば屋で修業
西村店主は今年50歳。ラーメン屋で10年、「豊しま」で4年間働いた。そしてモツ焼き屋などで数年以上掛け持ちで働いていた。
その間、豚肉の部位やその旨さ、見極め方、焼き方などを習得し、味の研鑽を重ねてきたという。そして2023年1月に「豊はる」をオープンした。
「自分で独立するのが夢だった。自分はどんな味を作っていきたいのか自問自答していた」という。そしてある一つの方向性がみえてきたという。それは「身近でうまい色々な部位の豚肉をそば・うどんともっと密接な関係にすること」だという。
そんな話をしているうちに「元祖パイカ玉きしめん」が完成した。美濃焼の瑠璃紺の青色が映えるうつわに、たぬき、そして柑子色(黄赤色)の鮮やかな「ひたち農園」の奥久慈卵、紅緋色の紅しょうが、ねぎがのせられている。まさに彩り鮮やかな一杯だ。
つゆの味の奥行きがすごかった
まず、つゆをひとくち。このつゆには今までに食べたことがない奥行きがある。訊ねると「パイカ」のエキスが入っているという。そばつゆに「パイカ」を炊いた汁を加えているのだ。これはうまい。ほんのりと生姜の味が香る。完成された味だ。そしてきしめんのつるつるした食感がたまらない。「パイカ」はほろほろと崩れ、コラーゲンリッチのトロっとした旨味が口一杯に広がる。まさか、「豊はる」でコラーゲンの大量補給ができるとは夢にも思わなかった。唇がコラーゲンでしっとりしている。
「このパイカを食べに女性たちがよく来店するようになった」と千秋女将が教えてくれた。
奥久慈卵を崩して「パイカ」に絡めて食べるとこれは絶品だ。ライスを頼んでのせて食べたいくらいだし、これでビールを飲みたいくらいである。「パイカ」は圧力鍋で1時間以上炊いて、その後返しと出汁と生姜などを合わせてさらに炊いていく。とろけるようなうまさである。
2023.09.15(金)
文=坂崎 仁紀