『きれいになりたい気がしてきた』収録秘話
──お聴きになるタイトルは、どのように選んでいるのですか?
堀井 気分で選ぶこともありますし、ナレーターの「声」で選ぶこともあります。
私は低くて落ち着いた声が好きなので、有名無名にかかわらずいろいろなタイトルを聴き比べながら自分に合う音の高さや好みのナレーターを探して、その方が読んでいるタイトルをチェックしたりしています。
あとは「この人が読むなら聴きたい」と、朗読者からタイトルを選ぶこともあります。
──「この人の声で聴きたい」という聴き方ができるのはいいですね。堀井さんは、ポッドキャスト番組「OVER THE SUN」(TBSラジオ)で共演されているジェーン・スーさんの著書『きれいになりたい気がしてきた』(光文社)のAudibleナレーターも務めていますが、これなどはまさに「スーさんと一緒にラジオに出ている堀井さんの声だから聴きたい」という利用者が多いのではないでしょうか。
堀井 番組のリスナーである「互助会」のみなさんは、スーさんの話し方もクセもよくご存じなので、そういう期待はあったかもしれませんね。
──レビューを見ると、「ポッドキャスト初回からのおふたりのファン」「ポッドキャストでお馴染みのスーさん×美香さんの組み合わせだったからAudibleを契約した」「いつもの笑い声が聞こえてきそうな気がして楽しんで聴いた」などの感想もたくさんあります。ファンの期待度が高い分、プレッシャーも大きかったのでは。
堀井 そうですね……。書籍のなかには、私がスーさん本人から直接聞いたエピソードも多く掲載されていたので、一つひとつのエピソードの背景に潜む彼女の思いもすごくよくわかりました。ですから、少しでも行間に込められた思いがにじむように表現しました。
でもそれは、スーさんになりきって、声やクセを真似するわけではありません。いつも側で見ている私から見たスーさんを表現できるよう心がけた、ということです。
──「ジェーン・スーさんそっくり」に読むことがいいわけではないのですね。
堀井 実は朗読においては「正しく美しく読める」ことって、そんなに重要ではないんですよ。朗読って、美しく読むことよりも、いかに聴き手に寄り添えるかが大事だと、私も先輩から教わりました。言葉の意味はもちろん、作者の思いにまで踏み込んで表現することで、はじめて聴き手の感情に寄り添うことができるようになる……。そこまでできるのが、「いい朗読」なのかなと思っています。
好きな声の方だと延々聴いていられる
──堀井さんは、朗読をライフワークにされています。そもそも、なぜ朗読を始めたのですか?
堀井 育休中にアナウンサーとしての自分の将来を考えたことがきっかけです。アナウンサーって、「実況のプロ」「報道ジャーナリスト」のように専門分野がいくつかあるんですけど、ふと私の専門って何だろうと考えた時に、自分には確固たる強みがないことに不安を抱いたのです。
そんな時に、まわりの先輩から「朗読上手だね」と言っていただいて……。アナウンサーですから文字を読むのは得意でしたし、「だったら、朗読頑張ってみようかな」と鵜呑みにして、20代後半から朗読を始めました。
それに、報道と違って朗読は比較的自分のペースで仕事ができるので、子育てをしながらでも続けられるのでは、と考えたことも大きかったですね。
──朗読はどうやって練習されたのですか?
堀井 新潮社から発行されていた『新潮カセットブック』で、橋爪功さんや幸田弘子さんの朗読を、体にしみこむまで何度も繰り返し聴きました。好きな声の方だと延々聴いていられるし、不思議に内容も頭に入ってくるんですよ。あの当時はカセットで、しかも買い切りでしたから、12万以上の聴き放題対象セレクションがあるサービスを、月額たった1,500円で利用できるなんて、いい時代になりましたよね~。
2023.09.15(金)
文=相澤洋美
写真=佐藤 亘