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●電子書籍は戦国時代! マンガの表現にも変化が

――電子は便利な上に、新しい作品に出会えるチャンスも多い、と。一方で、アプリが多すぎてよくわからないという声もよく聞きます。

荻野 わかります。アプリだけでも大きく分けて、我々のような電子書店系アプリと各出版社さんが運営しているアプリがあって。書店系の中でも毎日1話無料で読めるサービスが売りのアプリもあれば、特定のジャンルに特化した品揃えが売りのアプリもある。ただマンガが読めるというだけでも多岐にわたっているんですよね。

すず木 本当にいろんなアプリが乱立していて、ちょっとした戦国時代ですよね。

足立 アプリも増えたけど、作品数もめちゃくちゃ増えましたよね。

荻野 増えすぎて、プロの私たちですら追いきれない。

足立 商品の形態も増えましたよね。紙の単行本と同じような巻配信のものもあれば、それを1話ずつ切り取って販売する分冊版もあるし、場合によっては1、2、3巻を合本したものもある。さらに、これらの縦読みバージョンがあったり。

荻野 巻は紙の単行本と同じで、連載が出てから3ヶ月後ぐらいでないと配信されないんですが、分冊版は連載が出た3日後ぐらいに配信されるので、早く読みたい人には嬉しいですよね。

すず木 ただ、早く読みたくて分冊版を買ったけど、巻の方にオマケがついてて、えーってなることもある(笑)。あと、間違えて買ってしまったり。

荻野 ありますよね~。

足立 特に、電子書籍のみの出版社さんは分冊のバリエーションが多い印象ですね。

――紙から電子へ、読まれ方が変わったことでマンガの表現にも変化は生じているのでしょうか?

荻野 最近は電子で読まれることを前提に描かれている作家さんも多いですよね。たとえば、紙のマンガだと見開きで見せるシーンを縦スクロールで読ませるようにしていたり。ページが切り替わった瞬間に、右を見た時と左を見た時の仕掛けが違ったりする、おもしろいマンガが増えている気がします。

足立 『ローズ ローズィ ローズフル バッド』(いくえみ綾/集英社)は、マンガ家が主人公の作品なんですが、実際に作中で「紙だったらここ見開き、でも今は電子だから……」と言うシーンが出てくる。やっぱり作家さんもすごく意識されてますよね。

すず木 コマ割りも昔のマンガとは全然変わってきてますよね。

荻野 以前は、紙のマンガを電子で読むと読みにくかったんですが、最近はスムーズに読める。コマ割りがすっきりキレイになってるんですね。

足立 いい悪いではなく、昔の少女マンガとか、コマ割りがめちゃくちゃ複雑でしたよね。

荻野 そうそう、パズルのように入り組んでいたり、コマをぶち抜いて人物が描かれていたり。

すず木 確かに、そういうコマ割りの作品は最近は見ないかも。でも『チェンソーマン』(藤本タツキ/集英社)なんかは、すごく映像的で大胆なコマ割りで、これは電子で読まれることを想定しているからこそのデザインなんだろうなと感じますね。

2023.09.09(土)
文=井口啓子
撮影=末永裕樹