その後男性も30代後半で結婚して子供が生まれ、妻のすすめで都内のマンションを購入したため、以前ほど余裕はなくなった。一方の弟は、敷地の一部を時間貸し駐車場にして収入を得るようになった。

「弟は駐車場の利益さえ、私に払おうとしないんですよね……」

 男性の不満は高まっている。

争いを避けるために生前贈与

「特定の子供に家を譲りたい時は、家を生前贈与するしかありません」

 実家の相続について、秋山清成税理士はこう話す。

 将来の相続税を減らすために子供に現金を生前贈与する親が増えてきた。不動産も生前贈与できるが、現金と同様に不動産の贈与も贈与税がかかる。

 たとえば父親が評価額3000万円の持ち家を長男に生前贈与すれば、贈与税に不動産取得税を加えて約1300万円かかり、受贈した長男が払うことになる。

 3000万円の実家を手に入れるために1300万円払うのは大変高く感じるだろう。しかも相続まで待てば、預貯金など他の財産が少なければ相続税ゼロで相続できる可能性もある。

 しかし、秋山税理士はこう強調する。

「事前の話し合い」が大切

「生前贈与すれば家の所有権が確実に長男に移り、将来、兄弟で共有して家を相続したり、売却に追い込まれたりすることがなくなります。家の相続で揉める可能性があれば、長男は、贈与税を払ってでも3000万円の家を手に入れることを考えるべきです。もちろん他の兄弟の同意は必要ですが、事前に話し合うほうが同意を得られる可能性は高くなります」

 贈与税の負担が重ければ、何年かに分割して贈与し、贈与税を下げることもできる。3000万円の家を一括贈与すれば贈与税等は1300万円かかるが、7年間に分割すれば負担は3分の1の約400万円まで減らすことができる(秋山税理士の試算より)。

「様々な家族の相続を見てきて、贈与税の支払いで損するとしても、家を生前贈与したほうがいい時があることを知りました。家族の事情はそれぞれ異なるため、必要なことは、その見極めです」(秋山税理士)

父が遺した「売れない実家」を相続…途方に暮れる50代男性に、国税OBの税理士が提案した「1つの対策」〉へ続く

2023.08.31(木)
文=坂田拓也