本来、共有持ち分だけでは利用価値がなく、第三者への売却は難しい。しかしインターネットで検索すれば、「共有不動産の持ち分を買い取ります」という宣伝が溢れている。不動産業者は、共有持ち分を買い取れば利益が出ると分かっているのだ。

 東京・世田谷区在住の男性が亡くなった後、3人の息子が自宅を共有で相続し、長男夫婦が住んでいた。相続して何年も過ぎた時、次男が「持ち分を売りたい」と言い出した。次男は事業に失敗して金回りが悪くなり、お金が必要な状況に追い込まれていた。

 次男の持ち分だけでも数千万円の価値がある。老後資金の確保を考えれば、長男夫婦は買い取ることはできなかった。

きょうだい仲が良くても勧めない

 長男夫婦は松尾社長のところに相談に来た。

「共有者が持ち分を売る時は、どうしても売りたい場合が多く、共有物件買い取りを掲げている業者は買い叩けるのです。そして他の共有者に買い取りを求めます。1000万円の価値がある時、200万~300万円で買い叩いて、他の共有者に600万~700万円で売れば数百万円の利益が出ます。他の共有者が買い取りに応じなければ様々なトラブルが起きることもあります」(松尾社長)

 長男夫婦は松尾社長に相談した後、高齢になれば戸建ての管理が大変になることも考慮し、売却してマンションへ移った。

「長男夫婦たちが相続する時、税理士は『兄弟の仲はいいですよね?』と聞いて共有相続を勧めたようでした。しかし仲が良くても共有は勧めません。私は、共有相続を検討している相続人がいれば、まず、『売却してはダメなのですか?』と聞きます」(松尾社長)

なし崩しになった「弟との約束」

 金融機関に勤める50代の男性は、20年前に神奈川県の実家を弟と2人で共有相続した。その後、先に結婚した弟が実家を建て替えて妻と子供2人で住みはじめた。

 実家は男性も共有しているため、男性が弟に地代の支払いを求めることができる。弟も建て替える時は「払う」と言っていたが、なし崩しになった。独身だった男性は、子供2人を抱える弟に要求しなかった。

2023.08.31(木)
文=坂田拓也