相続の現場で頼りになるのが「税理士」だが、その大半は法人税や所得税が専門で、実は制度に詳しくないという。一方、税務署の調査官として様々な事案にふれてきた「国税OB」は、その道のスペシャリストだ。

国税OBだけが知っている失敗しない相続』(坂田拓也 著、文春新書)では、国税OBの税理士たちがこれまで目撃してきた実例をふまえて、相続の「抜け穴」と「落とし穴」を指南する。

 ここでは本書を一部抜粋して紹介。相続で争いが起きる最大の原因は「不動産」。家族の衝突を避けるために、どのような対策をとるべきなのか。(全2回の1回目/続きを読む

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 相続は「争続」と表現されるほど争いが起きるものだが、最大の原因は「不動産」である。

 両親の家の価値が3000万円、預貯金が900万円で相続財産が3900万円あり、長男・次男・長女の3人が相続人の時、法定通り3等分すれば1人1300万円を相続することになる。

 この時、長男が3000万円の家の相続を希望すれば、次男と長女は預貯金を半分に分けた450万円ずつしか受け取れず、次男と長女は納得できないだろう。一方で、長男が家を相続した上で法定通り分配するためには、長男が自腹で次男と長女に850万円ずつ、計1700万円を払わなければいけない。長男は現金を相続することができないため支払いは重い負担になり、今度は長男が不満を抱くかもしれない。

不動産が争いの原因になる理由

 相続争いの最大の原因が不動産であるのは、現金と異なり、分割することが難しいためだ。

 しかも不動産が絡めば、財産分配の方法によって各人の相続税額に差が出る可能性がある。長男が親と同居していれば、特例を利用して相続税を下げられる一方、長男が次男と長女に現金を渡せば、贈与となって次男と長女に贈与税が課せられる可能性が出てくる。

 揉めはじめれば、こうした細かいことまで争点になるという。

「親の不動産を誰が継ぐかは、事前に話し合っておくべきことです」

2023.08.31(木)
文=坂田拓也