阿保秋声税理士はこう強調する。

 以下、不動産等の相続を巡る様々なケースを紹介する。

 

東京都在住、30代の女性の場合

 東京・練馬区の賃貸マンションに住む30代の独身女性。両親は埼玉県郊外の持ち家に住み、サラリーマンの弟は妻と子供と3人で都内の賃貸マンションで暮らしている。女性は弟との関係が悪く、ほとんど交流がない。

 2019年の年明けに女性が実家に帰った時、母親が「実家を売って、都内に2世帯住宅を建てて弟夫婦と同居したい」と言い出した。

 女性が嘆息する。

「新居を建てるとすれば、古くなった実家を売るだけでは足りず、両親の貯金も使うことになる。そうなれば私には帰る実家がなくなるだけではなく、相続できる財産も少なくなってしまいます。母親は小さい頃から弟を可愛がって来ましたが、そこまで考えているなんてショックでした」

 しかしこの場合、両親が亡くなって相続する時には弟の負担が大きくなる。

 子供は平等に相続する権利がある。

 両親の財産が弟のために建てた家だけになった時、家の評価額が8000万円とすれば女性は半分の4000万円を相続する権利がある。弟が家を相続して住み続ければ4000万円を姉に支払うことになり、サラリーマンの弟が簡単に用意できる額ではない。

 もちろん、姉弟の仲が悪く、母親が弟との同居話を勝手に進めていることに不快な思いをしている女性が、4000万円の額を引き下げることはあり得ない。実際、女性に聞くと「絶対に譲らない」と今から息巻いている。

ショックを受けた「父の遺言」

 都内に住む40代の女性は、夫と2人暮らし。結婚して子供が2人いるサラリーマンの弟がいる。

 女性は投資家として成功し、1億円を超える資産ができた。ある時、父親が女性の資産の額を知り、遺言書に「財産はすべて弟に渡す」と書いた。

 女性が話す。

 

「父親の財産が弟に渡ることは仕方ないかもしれませんが、父親が一言の相談もなく遺言書を作成したのはショックでした。金額の問題ではありません。父親が亡くなった時は、遺留分ぐらいはもらおうと思っています」

2023.08.31(木)
文=坂田拓也