永井 なるほど。
城山 トヨタ自動車もそうですよ。工業の石田退三と販売の神谷正太郎の連携プレーがうまくいって世界的企業に躍進することができた。
だから、日本で強い会社というのは、ナンバー1がいない会社ではないかと思うんですね。へたにナンバー1が強い会社になると、パーッと突っ走って、みんなバタン、バタンとなって経営が入れ替わるというのが普通ですよ。
私は、良きナンバー1になるためには、自分の中にナンバー2的要素を持って育てていくか、それができなければ、ワンマンにならないか、そのいずれかではないかという気がするんですけどね。
永井 なるほどね。そういわれると、ナンバー2で一番素晴しかったのは、やっぱり北条義時ですね。
あの人は、絶対にナンバー1にならなかった。頼朝、政子というナンバー1がいますけど、自分が実力者なんですよ。それなのにナンバー2に徹しきっている。これはある意味で、政治がとことん好きなんです。
会社にたとえれば、有名になりたいんでもないし、お金持になりたいわけでもない。とにかく経営の仕事が飯より好きだというようなタイプじゃないと、みごとなナンバー2はなかなかつとまらないんじゃないかしら。
義時の場合も、位の昇進は望まない。あくまでも陰の人なんです。要するに、政治が飯より好きな男でないかと思うんだけど、やはり、一種のプロ根性がないと“2”はつとまらないんじゃないですか。
城山 そうでしょうね。だから、ぼくは明治維新後では大久保利通がそうだったと思いますね。西郷隆盛とか三条実美などを立てておいて、彼は実務をしっかり握っている。ポストからいえば、内務卿ですからね。
永井 そうです、そうです。
城山 だから、ほんとうにナンバー2だけれども、政治は彼が全部やっているわけですものね。
野望を押し殺せるバランス感覚が大切
永井 私は、ナンバー2がナンバー1になるチャンスというのは一回しかないと思うんです。そのときにマズったらだめですよ。明智光秀がそうよね。彼はほんとうはナンバー2ですよ。信長の信頼は、秀吉などよりも光秀にあった。自他ともに許すナンバー2だった。だから、その一回のチャンスに賭けたわけよね。
2023.08.30(水)