城山 ハハハ。
永井 それに平安朝は、官僚社会、組織社会ですから、ワンマン社長ではできない時代でしょう。閣議一つやるにしても、下の人から発言するというルールがきまっている。また、古事先例といって、当時の六法全書を頭の中に叩きこんでおき、こういうときはこういう判決でしたからこの人の罪はこうすべきだ、とかね。で、その中で、各々の派閥の利害を背負って渡り合うわけです。道長は座長役ですから、こうした状況を把握して最後の議決をとる。
よく、道長は御堂関白(みどうかんぱく)といわれてますけど、関白になっていないんですよ。関白になると議場に臨めないですからね。各々の思惑がわからない。下の人全体を摑むためには、やはり現場にいなきゃだめだと考えていたんですね。
城山 名前はどうでもいいから、実権を放さない。“花も実も”というふうにいわずに、花は捨てて、実をとるという生き方ですね。
結論的になりますが、良きナンバー1になるためには、良きナンバー2的な性格をもっていないとだめですね。単純なナンバー1型人間は危険ですね。
良きトップは、良き「ナンバー2」的性格を持つ
永井 現代の企業の方ではいかがですか。実際にご覧になって……。
城山 日本の場合、うまくいっている企業は、ある意味でナンバー1がいないんですね。本田技研がそうです。本田宗一郎という技術畑の人間と、藤沢武夫という、販売、経営、管理の人間と二人がペアでいる。
本田さんにいわせると、自分は社長じゃない、専務か技術担当重役だというんですね。実印はほとんど全部、もう初めっから藤沢という人に渡しちゃって、決裁は全部まかせてしまっている。しかし藤沢さんは、自分はあくまで副社長だからというわけですね。その意味でナンバー1がいないんですよ。
永井 ああ、そうですか。
城山 ソニーもそうです。井深大という技術畑の人と盛田昭夫という管理をしっかりやる人の二人がいる。井深さんは、経営や管理のことは盛田さんを初め何人かがうまくやってくれたので、自分は技術だけやっていればよかったといっている。盛田さんは盛田さんで、うちには井深さんという技術に素晴しい人がいたという、お互い、素晴しい人がいたといい、組んで仕事ができてよかったといっているんです。やっぱりナンバー1はいないわけですよ。
2023.08.30(水)