永井 なれるタイプですね。力がありながら、その野望を押し殺せるというのが、やっぱりナンバー2の条件ではないでしょうか。
城山 周恩来だって、その気になれば事を起こせたでしょう。事実、共産党の初期の段階では、周恩来の方が毛沢東より偉かったんですからね。
永井 そうでしょうね。
城山 それなのに、自分の執務室には毛沢東の像を置いている。晩年までね。ほんとうは自分の方が偉かったのだからいまいましいでしょうけどね。腹の中はどう思っていたかわからないが、ともかく、毛沢東を立てなくてはいけないんだということを、部屋に入った人にいい聞かせる形になりますものね。
部屋も大変質素でね。周囲の人たちが見かねて、ある日、周恩来が旅行しているときに全部入れ替えたら、帰ってきて周恩来はカンカンに怒り、全部元のものに戻させたそうです。
永井 みごとなもんですね。
城山 そういう意味で、質素というか、名誉欲もなければ生活も派手にしないで、相当自己を殺せる人でないと、良きナンバー2はつとまらないでしょうね。
永井 そうですね。でもやっぱり、醍醐味があるんじゃないですか、それだけ。富でも名誉でもない、ある種の何か、人間を駆り立ててやまない、本質的な欲望というかなあ。それがないとだめなんじゃないかな。
城山 うん、うん。仕事の上の欲望といいますかね。恐らく彼は、情報は一番握っていたでしょうからね。毛沢東などは、もう上にのっかっているだけでしょうしね。その意味では、自分で全部情報を握って動かしている、そういう快感はあったでしょうね。
永井 それに、歴史を見通す力はあったですね。しかも、絶対にバランスを崩さずに、“変”に備えるところがあってね。右に行き過ぎない、左に行き過ぎない。もし左に行き過ぎても、自分は落っこちないだけの、一種の精神的バランスというか、バランス感覚があった。これも大切ですね。
城山 良きナンバー2は、良きバランス感覚を備えている、そうですね。
2023.08.30(水)