自分の娘の和子が後水尾天皇のところに嫁ぐんですが、徳川の娘が天皇家に嫁にいくのは初めてなんですね。ここで一種の公武合体ができる。ところが、この婚約成立の間に後水尾天皇が、自分の近くにいる御所の女房に手をつけ、子供ができちゃう。秀忠はこれを知って、そんなふしだらなところにうちの娘はやれない、キャンセルするといいだすんですね。これ、家康にはいえないセリフです。
城山 ハハハ。
永井 天皇にとってみれば、婚約解消されたらメンツが立たない。そこで勘弁してくれと頭を下げてくる。「わかった」ということで結局、天皇家をおさえちゃうわけですからね。いわゆる徳川幕藩体制を、ほんとうにきめたのは秀忠ですね。この人は、ナンバー1になっても、ナンバー2精神を持ち続けた、タイプですね。
城山 ナンバー1は、猪突猛進型であるのに対して、ナンバー2は、先程もいったように、バランス感覚があり、退くことも知っているわけです。そこで、現代のナンバー2タイプはというと、やはり瀬島龍三ですね。あのガダルカナル島からの転進を決定させたのは、若き参謀時代の瀬島なんですね。
永井 あ、それはすごい。
城山 日本の陸軍の歴史には撤退などはなかったわけですからね。いろんな選択肢はあるけど、とにかくここは撤退した方がいいという案を、敢えて出した。その意味では、やはり非常に優れたナンバー2人間の持つバランス感覚の良さがありましたね。
だから、後に伊藤忠商事に入ったのですが、おそらくあの人は社長になろうとは全然考えなかったでしょうね。その伊藤忠を、繊維会社から強大な総合商社に実務の面で仕上げていった。
今の臨調の仕事でも、表では土光(敏夫)さんを立てて、実務は全部あの人が取り仕切っている。やはり、現代におけるナンバー2人間の優れたタイプだという気がしますね。膨大な情報量を持っていますし、人脈も持っているんですが、絶対にスターにはなりませんしね。
2023.08.30(水)