アンドリュー・ヘイ、小川洋子……影響を受けた作家

――加藤さんは20代にしてたくさんの作品を作ってこられました。これまで影響を受けた創作物はなんですか?

 僕は10代の頃、野球をやっていて、ほとんどテレビや映画を観ていなかったんですよ。好きな映画監督はいますけど、たとえばアンドリュー・ヘイとか。それも、だいぶ後になって知った人ですね。ただ、小説家の小川洋子さんの小説と出会ったのは大きかったかもしれない。自分にはできない、物腰柔らかく毒づいてくる感じに憧れます。

言葉って道具でしかない

――最後に、加藤さんのこれからの展望を教えてください。

 今の気分の答えになっちゃいますけど、多言語で作品を作ってみたいという気持ちがあります。演劇でも映画でもいいんですが、日本語に固執している意味はあまりないのかなと最近思っていて。

――加藤さんはセリフの細かなニュアンスを大事にしている印象があったので、少し意外です。

 物語の解像度とセリフ、言語の解像度がイコールではない、ということで考えたいのです。

 言葉って道具でしかないじゃないですか。たとえば今、「このテーブルは茶色い」と互いに思っていても、僕が感じている茶色と皆さんが見ている茶色は違うかもしれない。全部それぞれの主観だから、一緒かどうか確かめようがないんですよね。その道具が、記号が、日本語以外の言葉になることによって、コミュニケーションの底が抜けるのか。今はそこに興味があります。

加藤拓也(かとう・たくや)

1993年、大阪府生まれ。脚本家・演出家・監督。17歳でラジオ・テレビの構成作家を始め、翌年イタリアで映像演出を学ぶ。帰国後、「劇団た組」を立ち上げ舞台演出を始める。2022年上演の『ドードーが落下する』で第67回岸田國士戯曲賞を受賞。『ほつれる』はオリジナル脚本の映画『わたし達はおとな』(2022)に続く2作目。「俺のスカート、どこ行った?」(2019/NTV)、「きれいのくに」(2021/NHK)などテレビドラマの脚本も手がけている。

映画『ほつれる』

2023年9月8日(金)新宿ピカデリーほか全国公開

出演:門脇麦 田村健太郎 染谷将太 黒木華 古舘寛治 安藤聖 佐藤ケイ 金子岳憲 秋元龍太朗 安川まり
監督・脚本:加藤拓也
製作:『ほつれる』製作委員会
製作幹事:メ~テレ ビターズ・エンド
配給:ビターズ・エンド
https://bitters.co.jp/hotsureru/

Column

TALK TIME

ゲストの方に気になる話題を語っていただくインタビューコーナーです。

(タイトルイラスト=STOMACHACHE.)

2023.09.09(土)
文=釣木文恵
撮影=平松市聖