文学的表現をいかに映像化するか
綿密な本打ち(脚本打ち合わせ)により、渡邊氏をはじめとするスタッフのアイデアや意見も多く脚本に注入されているという。脚本家・長田育恵氏の書く物語の印象を聞いてみると、
「長田さんとは『旅屋おかえり』(2022/2023、NHK BSプレミアム)というドラマで2年ぐらい一緒に仕事をしたなかで、なんとなく考え方の方向性が似ているなと思っていました。『らんまん』の企画がスタートしてからも、『こういう感覚』『こういう世界観』だよね、という互いの認識が、わりと同じ方向だったと感じます。長田さんは戯曲のご経験が長いこともあり、思考が文学的なんですね。
しかし、文学的表現というのは、映像化するときにすごくハードルが上がるんですよ。たとえば、植物に代表される『もの』に何らかの感情を乗せていくようなト書きがあったとして、単純にそれを映像として表現すると、ただ物が映っているだけになってしまう。だから、長田さんが描きたいことの『向こう側』を汲み取って、『おそらくこういうことを言いたいんだろうな』というところを僕らは深読みして、映像化しています」
と、やはり『らんまん』の抒情豊かな映像は、脚本と演出の強靭な“二人三脚”と“以心伝心”の賜物なのだと、再確認させられる答えが返ってきた。
令和の朝ドラに求められる「わかりやすさ」について思うこと
令和の朝ドラには、多様化した視聴者層と視聴スタイルに応じて、「わかりやすさ」と「物語の奥行きの深さ」の両方が求められている。『らんまん』は、その2つの両立という難題を優にクリアしていると感じる。渡邊氏は、令和の朝ドラの「わかりやすさ」についてどう考えているのか、聞いてみた。
「『らんまん』に関しては、パッと見て画(え)的にわかりやすい、ベタなことはやらないほうがいいのかな、と思いました。どちらかといえば、人の思いの『起伏』みたいな部分をきちんと描くことを重視したい。派手なところは派手に、泣くところは泣く、楽しいところは楽しく……みたいな方法論も、もちろんありますし、そういう表現自体を否定するつもりはありません。ただ、この作品では、視聴者の方々に想像してもらう部分を大事にしたいと考えました。
2023.08.12(土)
文=佐野華英