72歳女将の多忙な日々
なるほど、それで会話に「1号店」とでてきたのか。しかし、店を2つもやっていて、さらに3号店として引き継ぐのはかなり根性がいる決断だったのではと質問したところ、次のような人情が滲み出た回答が返ってきた。
「ここが15時に終わると、夕方から2号店にいってスナックを営業するわけよ。そして翌日朝4時過ぎにはここにきて仕込みをするから、すごく大変なの。でもね平和島にはトモダチも多いし、大切な場所だしね。みんなからチカラを借りてるから店もやっていけるのよ。私も72歳で大病もした。そして復活して今があるから元気な時はできるところまでやってやろうじゃないのと思うわけよ」とあっけらかんとした雰囲気である。
女将は60代の時に脳梗塞、そして去年は肺がんの手術をしたという。大丈夫なのだろうか。「満身創痍だったのよ。そうは見えないでしょ。ピンピンで。でも去年まではもう辛くてね。健康が戻った今は本当に嬉しいのよ。だから営業するわけよ」と続ける女将。話を聞きながら追加注文した女将お手製の「明太子入りおにぎり」は大きくて格別な味だった。
「かき揚げそば」を食べに再訪
また、別の平日午前中に温かい「かき揚げそば」を食べに再訪すると、前回にもましてシャキッシャキボイスで大歓迎されてしまった。「かき揚げそば」のつゆをひとくち。冷しのつゆもそうだったが、こちらも出汁がしっかりと利いた上品な味である。かき揚げは女将お手製でカラっと揚げられており、食べ応えが心地よい。
人気のお弁当は、トモダチで近所にある肉料理や洋食を提供する「キュリードシゲール」のオーナーに頼んで作ってもらっているそうだ。また来ることを告げて店を後にした。「また、おいでよ~」と背中にシャキッシャキボイスを受けながら平和島駅へ向かった。
小さな店の素敵な人生ドラマ
息子さんが平和島で立ち食いそば屋をやろうと思ったのは、もちろん女将(お母さん)の健康を心配してという部分もあったはずだ。しかし、結果的に女将が引き取るカタチで立ち食いそば屋を続けることになったというのはすごい話だ。
2023.07.23(日)
文=坂崎仁紀