女将は大手製麺屋の茹麺を湯通しして、すぐ水で冷し、大きな赤いどんぶりに入れ、冷し用のつゆをかけ回し、豚バラ肉と辛味噌をかけて、わかめとねぎをのせて完成させた。すこぶる手際が良い。
ほどなく「冷やし肉味噌そば」が登場した。さっそくつゆをひとくち。鰹節厚削りで出汁をとったつゆは香りがよい。つゆの色は浅めで返しは強すぎることはなく、上品な味である。そばは十分に冷えており茹麺でもなかなかよい。辛味噌を豚バラ肉にのせてそばと食べてみると、この味噌がいいアクセントになっている。シャキッシャキの女将の味はなかなかのハイクオリティだ。
そばを味わいながら食べていると、常連さんだろうか、次々と地元のオジサンやお姐さん達がやって来る。そして女将も「何やってんのよ、遅いじゃない。お弁当はもう売り切れちゃったわよ」とか「1号店はまだ営業してないよ。昨日は酔っ払いがいて大変だったらしいよ」とか話をしている。『1号店? 酔っ払い?』ますます謎は深まるばかりだ。
立ち食いそば屋の女将になった経緯に驚いた
あまりにも謎なのでお客さんがいなくなった時、女将に質問したところ、次のような驚くべき事実が判明した。女将は平和島で「立ち飲み処きみちゃん1号店」(「つばめ屋」の2軒となり)や「スナックカラオケきみちゃん2号店」を経営する代表取締役・土屋喜美江さん(72歳)だという。「つばめ屋」を開業した青年は、実は女将の息子さんだというのだ。なんだか話は急展開だ。
なぜ「つばめ屋」を女将が引き受けることになったのだろうか。女将に質問してみるとその経緯が分かってきた。「聞きたい? 話すと長いわよ」といいながらマシンガントークがスタートした。
息子さんは1月に開業後柏と平和島を行き来する過酷な状態になり体調を崩してしまい、3月から一時閉店状態になっていたという。「当初は店を手放すかという話もあったけど、せっかく息子がイチから作ったものだからもったいないでしょ? それで自分がすべて引き取るカタチで5月に再開させたのよ。1・2号店があるから、ここは3号店と呼んでるのよ」というのだ。
2023.07.23(日)
文=坂崎仁紀