この記事の連載
- 佐藤二朗インタビュー #1
- 佐藤二朗インタビュー #2
装画は漫画家の新井英樹さん
――装画は漫画家の新井英樹さんが担当されました。これは佐藤さんからのご依頼ですか?
佐藤 もともとは、装幀のデザイナーさんからの提案です。新井英樹さんの漫画『ザ・ワールド・イズ・マイン』(CoMax)はバイブルにするほど大好きで。それをきっかけに、漫画『宮本から君へ』(新井英樹作)が映画化するときに出演させてもらった経緯があるんですけど。そのことをデザイナーさんがご存じで、候補として挙がったようです。私としては「描いてもらえるんですか!?」という気持ちで。お引き受けいただいて感謝いっぱいです。
――リンゴを持つ表紙になったのは?
佐藤 コラムを読んだ新井さんが考えてくださった構図です。
コラムにも書いたんですけど俺の顔って本当に大きくて、整体師の先生から「首に気を付けてください。例えるならリンゴを爪楊枝で支えているようなものですから」と言われたことがあるんです。「あはは。そんなまた、ウケを狙って」と振り返ったら、ものすっごい真顔で。そのエピソード(186ページ)から選んでくださいました。
――表紙をめくった部分にも佐藤さんらしさがありますね。
佐藤 そこはデザイナーさんから提案いただきましたね。本を息子に見せた時、「お父さんが書いた本な、カバー外すとな。表紙は、佐藤二朗。裏は……」と声をかけた時点で笑ってて。外して見せたら「予想通り」って。俺がああいうテンションで「見てみろ」って言うからわかったみたいですね。
「やりたいことをやるがいいさ」
――コラム執筆のきっかけを教えてください。
佐藤 率直に言って、AERA dot.さんから話が来たのがきっかけですね。日曜日の夕方に隔週で配信する枠で、ひと笑いできて、明日からもぼちぼち頑張ろうかと思えるのが欲しいとオファーされました。駄目だったら4回くらいで連載が終わるだろうし、受けてみるかと。
――コラムって、佐藤さんの中で身近な存在だったんですか?
佐藤 身近じゃなかったですね。私は俳優ですから「演じることだけやるのがいいんだ」という思いが今も昔もありつつ、一方で演じる欲求とは別腹で書く欲求があるんです。そこに対する葛藤は昔からあったんですけど、舞台演出家の鈴木裕美さんと朝までサシで飲んでいた時に、彼女が「やりたいことをやるがいいさ」と言ったことがあって。
鈴木さんの言葉はものすごく当たり前で、手垢が付いた言葉だけど、実際には難しいじゃないですか。しかし「自分のやりたいこと」、その当たり前の気持ちに素直でいることって、機嫌よく生きることにつながると思うんです。自分を機嫌よく保つって、時に難しさもあるけど、とても大切なことだと思うんです。
私は鈴木さんの一言を聞いて、「俳優は演じることにストイックであるべきだけど、別腹で書く欲求があるのなら我慢する必要もないか」と思えたんです。
――書く欲求はいつからあったんですか?
佐藤 んー、わからない。演劇ユニット「ちからわざ」を旗揚げする時に「脚本を書く」と挙手した仲間がいたんだけど、「宇宙人が地球に舞い降りて劇団を作る」という内容で8ページで行き詰まってたの。「ちょっと僕には無理です」と彼があきらめたので、俺が書くわと言ったのが最初で。いろいろ書いているうちに「書きたいことを書こう」と思うようになりましたね。
2023.07.15(土)
文=ゆきどっぐ
撮影=石川啓次
スタイリスト=鬼塚美代子(アンジュ)
ヘアメイク=今野亜季(A.m Lab)