スー 女の人が1人で子どもを家で育てていくのって、かなりメンタルにくるんですよね。私はレコード会社に就職した社会人1年目の時に両親がいっぺんに倒れて、23歳で介護休職したんです。その時はやっぱり物理的に無理で。一人っ子なのに、こっちで死にそう、あっちで死にそうで、無理!って(笑)。子育ても介護も共同体で協力するってことができない限り、外注して誰かの力を借りる以外に手がない場合は必ずあります。

斎藤 必要な人たちに必要なケアが届くようにしながら、男性の労働時間を減らし、女性が1人で子育てや介護をしなければならない状況を変えるべきです。

少しスローダウンしていく“脱成長”

スー 私は、それぞれの人が働きたいボリュームで働いて、それを楽しいと感じ、生活もできるというのが一番だと思っているんです。能力が高くてガリガリ働きたい人はそうすればいいんだけど、そこそこの能力、そこそこの意欲、そこそこの時間を使って働いている人が、そんなに生活に困窮しないという状態すら実現できていないですよね。

斎藤 社会のあり方自体を変えていくべきですが、地球環境のことも考えると、方向性としては少しスローダウンしていくということを目指さざるをえない。それが、私がかねてから提唱している“脱成長”です。

スー すごく興味深い提言ですが、斎藤さんの著作の脱成長、先進国の生活を80年代前半に戻すという主張は、「それはそれで、なかなか……」と思いました(笑)。50歳の私でいうと小学校に入る前くらいの時代に戻るのかと。ずっと豊かな時代に過ごしてきたからなのかもしれませんが、どうしても「あの時代のほうがよかった」と思えなかったりもします。民主主義を前提として、格差を広げず、環境も破壊しない方法って、脱成長以外に選択肢はないものなのでしょうか。

 

フェラーリに乗るのを我慢するぐらいなんてことはないはず

斎藤 ひとつの可能性は、技術革新です。多くの人は気候変動問題の解決策を、太陽光や電気自動車などのテクノロジーが切り開くと期待していますが、それではもう間に合わない段階に来ています。私が80年代前半くらいに戻すといっているのは、いま使っているiPhoneなどのテクノロジーをなくせという話ではないんです。既存の技術はある程度維持したままで、たとえば過剰なファストファッションやファストフード、この20~30年の間に急速に増えたものを考え直してみようと。

2023.07.05(水)
Text=Kosuke Kawakami
Photographs=Wataru Sato