この記事の連載
- 磯谷友紀さんインタビュー #1
- 磯谷友紀さんインタビュー #2
- 『ながたんと青と』より
最初は料理を入れるバランスが難しくて
──戦後すぐの昭和26年という時代設定はどうやって出てきたのですか?
磯谷 まだ古い封建的制度が色濃く残る時代に、料理長として軽やかに頑張る女性を描きたいと、私がこの時代設定を提案しました。でも時代背景は好きで調べていたのですが、料亭の歴史となると全く未知の世界ですから、たくさん取材をさせていただき、感覚をつかんでいきました。
──京都で昭和10年に創業した老舗料亭「京料理 木乃婦(きのぶ)」さんにも取材されていましたよね。いかがでしたか?
磯谷 木乃婦の三代目主人・高橋拓児さんは、とてもリベラルな考え方をされる方で、歴史と伝統を受け継ぎながらも古い概念を打ち壊していく姿は、いい意味で想像と違っていました。
厨房には女性料理人も多く、理系出身の料理人が実験の考え方を料理に採り入れていることなども非常に面白かったので、私も「料亭」だからとあまり気負わず、自由にやわらかい感じで想像をふくらましながら描いています。
──毎話必ずおいしそうなお料理が出てくるのも楽しみです。伝統的な料亭の料理から、斬新なメニューまでたくさんのお料理が登場しますが、これも磯谷さんのアイデアなのですか?
磯谷 料理は「29Rotie」の店主・江澤雅俊さんという、プロに監修していただいています。「6月なので、季節にあった素材を使いたい」「前話が和食だったから、次話では洋食がいい」「お菓子を登場させたい」とおおまかな希望を伝えると、江澤さんがぴったりのメニューを考えてくださるので、参考にしています。
──ストーリーを進めながら、料理のシーンやレシピも入れ込むのは、バランスが難しいですよね。
磯谷 そうですね、最初はレシピを入れるタイミングが難しくて、ストーリーがブツ切れになるんじゃないかと心配していました。でも、担当さんから、「レシピは読みたい人が読んでくれたらいい、と考えることも大事」と言われ、少し肩の力が抜けました。
それよりも、料理がおいしそうで、食べている人が幸せそうに見えるようにすることに神経を使っています。だから、担当さんと取材で食事に行った時などは、食べている姿をめちゃめちゃ写真に撮らせてもらったりしています(笑)。
江澤さんも徹底的に作品を読み込んでくださって「今回のキャラクターはこういう気分だからこの料理にしよう」と、ストーリーとキャラクターの気持ちに寄り添った料理を毎回神業で提案してくださるので、ストーリーがふくらみを増し、より充実した内容に仕上がっています。
2023.07.08(土)
文=相澤洋美