「自分が成長途中と感じる状態で子どもを育てたい」と言ってくれた

このコムアイさんの変化を後押しした人がいる。文化人類学者で映像作家の太田光海さんだ。アマゾンの熱帯雨林で撮影したドキュメンタリー映画『カナルタ 螺旋状の夢』の上映でコムアイさんと出会い、彼女が30歳になる直前に交際を開始した。

 光海くんの両親は事実婚で、20代前半で共働きしながらの子育てだったそうです。周囲の助けも得ながら育った彼は、子育てに自由な発想を持っていて、自分が成熟した状態で子どもを迎えることに囚われていた私に「むしろ自分が成長途中と感じる状態で子どもを育てたい」と言ってくれたんです。本当にその通りですよね。

 子どもを言い訳に成長を止めるのはおかしいしコロナ禍が突然起きたように人生はいつだって変化し続ける。子育てにも正解はないし、だったら子どもと変化に柔軟に、楽しく工夫しながら生きていきたいと思いました。

昨年11月、コムアイさんは太田さんとの子どもを妊娠した。

 私よりも彼のほうが熱心に妊娠中の体の変化や病院のことを調べてくれています(笑)。私がいくつかの選択肢で迷っているとき彼は「どっちでもいいよ、任せるよ」とは言わず、とことん一緒に調べてくれる。でも強引ではなく、私の直感を尊重してくれます。彼とだから子どもを持つイメージができたのかもしれません。

 妊娠してからは、トロッコのレールが急に切り替わったみたいに体が変化しているのを感じています。妊娠中の母を父が撮ったホームビデオをこの前観たら、お腹に話しかける声がいまの私とそっくりでゾッとしちゃったんですよ。「母のような母親になるのは荷が重い」とずっと思っていたけど、声や話し方だけでなく、育て方もいつの間にか似てくるのかな(笑)。

2023.07.26(水)
Photographs=Yoina Sawano
Hair styling=Yuko Aoi
Associate editor=Kyoko Akayama

CREA 2023年夏号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

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