睡眠改善1週間で変化が現れる!? 脳は何歳からでも育て直せる
「発達障害もどき」が増えてきている背景には、現代の生活スタイルが大きく関わっているという。
「幼少期からの習い事や塾、忙しい親に合わせた夜型の生活、寝る直前まで手放せないゲームやスマホ、タブレットでの動画視聴。こんな生活スタイルが就寝時刻を遅らせ、睡眠の質を悪くします。塾通いの過熱は都市部特有かもしれませんが、日本中どこでもゲーム機やスマホは使えますから、子どもの睡眠不足は全国的な問題です」
まず、睡眠の質を高めて必要な睡眠時間を確保すること。それは、成長や心の安定に必要なホルモンを分泌させるのと同時に、“脳を育て直す”ためでもある。
「脳には育つ順番があります。まず、生体リズムを整える(1)『からだの脳』、次に言語や指先の動きに関わる(2)『おりこうさん脳』、そして、想像力など人間らしい能力を司る(3)『こころの脳』 が育ちます」
家にたとえるなら、土台となる1階がからだの脳、2階がおりこうさん脳、1階と2階をつなぐ階段がこころの脳というイメージだ。
「『発達障害もどき』は、グラグラした土台の上に知識などで膨らんだ2階を載せている、バランスの悪い状態です。解決するには、(1)の『からだの脳』から脳を育て直すしかありません。幸いなことに人間の脳は成長し続けるので、何歳からでも脳の育て直しが可能なのです」
脳は睡眠中に育つから、よく眠ることでしか、脳の育て直しはできない。小学生以下なら22時には熟睡状態になっていることを目標に。中学生でも9時間は睡眠時間を確保したい。
「リズムが整えば、小学校低学年以下の子どもなら、早いと3日くらいで日中の言動に変化が現れてきますし、1週間で『発達障害』のような症候が消えた例もたくさんあります。高学年以降だともう少し時間はかかりますが、改善していきますよ」
医療機関に駆け込む前に、まずは睡眠の改善に取り組む。それでも困りごとが続くなら、医療と繋がればいいと成田さんは言う。
命の危機から反射的に逃げて生き延びられるように
「発達障害もどき」だけでなく、実際に「発達障害」の診断がついた子でも、適切な睡眠をとることで症候が薄まることがあるという。
「人を思いやる気持ちが芽生えたり、進んで人助けの作業ができるようになったり、いい方向に変化する子をたくさん見てきました」
それほどに睡眠は、人間らしい脳、心を育むために重要なのだ。
「睡眠の改善に取り組む際は、たとえば夜10時までに眠るなら夜をどう過ごすか、朝7時前に起きるにはどんな工夫をするか、子どもと一緒に考えましょう」
そして睡眠以外のことには口出ししないと決めると親も楽になる。
「部屋を片付けろ、宿題はしたのか。注意ばかりされていては子どもの自己肯定感も下がります。ですからこの際、『睡眠時間だけは守ろう』 というメッセージ以外、親が口を挟むのをやめてみましょう」
本当に睡眠のことだけ!? と不安になる親が多そうだが……。
「大丈夫。ちゃんと脳が育っていれば、後からグンと伸びるときがきます。だから、フラットに、ゆっくり子育てしてください。塾やお稽古事に時間とお金を費やすばかりではなく、小さなことでも家事の役割を与えて、子ども自身が『ありがとう』と言われる経験をたくさんさせてあげてください。それが、自己肯定感の底上げに繋がります」
育児で思い悩んだときは、成田さんからのこのアドバイスが、迷いを吹き飛ばすはずだ。
「子育ての目標は、“立派な原始人を育てる”こと。日が昇ったら起きて、腹ごしらえをして活発に動き、日が沈んだら眠る。脳にとって理想的な毎日は、原始人の暮らしとなんら変わりません。大人になっても、社会の中で生き延びていくために必要なのは、『寝る・食べる・逃げる』 という原始的なスキルです。仕事で追い込まれて食べられない、眠れないとなったら、それを命の危機と感じて反射的に逃げてほしい。親が子に究極的に望むことは、元気に長生きしてくれることではありませんか? それならば、迷うことなく立派な原始人を育てていきましょう!」
成田奈緒子(なりた・なおこ)さん
小児科医、医学博士。神戸大学医学部卒業。文教大学教育学部特別支援教育専修教授。臨床医、研究者としての活動を続けながら、子育て支援事業「子育て科学アクシス」代表を務める。近著に『「発達障害」と間違われる子どもたち』(青春出版社)、『改訂新装版 子どもの脳を発達させるペアレンティング・トレーニング』(合同出版)。
2023.06.19(月)
Text=Yuki Imatomi
Photographs=Aflo