「これからの世代のために色々な石を投げていきたい」
――ヴェロニカが少女の頃に書いた詩の中に、「よりよく生きよ」という言葉がでてきますが、小泉さんはこの一節をどのように理解していますか?
少女の頃に見た空の色って、青かったんだろうなって思うんです。でも、長く生きていくといろんなことを知ってしまって、青にもいろんな青があり、自分の心次第で青い空の色を変えられると思うんです。青い空が灰色に見えてしまったりね。でも、まだ人生の絶望も諦めも知らない少女の頃って、心の中に青空が広がっていて、そういうときにヴェロニカがピエタに暮らす子たちを見て書いた詩は、自分へのエールにも感じたんです。
一人ひとりは小さな力だけれど、少しでもこの世界がきれいなものに、豊かなものに、幸せなものになるようにと思う人が一人でも二人でも増えたら、ちょっと先の未来が変わるとヴェロニカが信じていたように、私も自分に見える世界について同じように思っているんです。少女の頃の青い空さえ思い出せれば、心の中に青空が広がるし、未来はやさしい世界になるんだろうなあと。
これまでずっとエンジンをかけっぱなしで突っ走ってきて、エンジンを一回切ってしまうと、かけるのに時間がかかるから、そのまま走り続けてしまった大人たちがいたと思うんです。私もその一人だったと思う。政治や社会のことはちらっと気にはなりつつも、今急いでるからって見ないふりして生きてきちゃった世代で、そういう私たちが置き去りにしてしまったものの結果が、今ここにきて突き付けられている。そんな気がして、愕然とした気持ちになったんですね。
だから、私たちのようなエンターテインメントの世界の人たちは、いろんな石をたくさん投げるべきだと思うんです。でもその石は、自分とは違う考え方をしている人に向けるのではなく、こんな素敵な物語があるんだよ、こんな素晴らしい歌があるんだよ、こんなにすごい映画があるんだよ、という方向に向けて投げるべきで、それをひとつでも多く投げたいなあと思うんです。一人ひとりが投げた石は小さくても、大勢で投げれば山はきっと動くから。
結局10年以上これを温めてきましたが、今、この舞台をやることがベストなタイミングなんだと思っています。コロナ禍で自分のことを考え、世の中のことを見る時間ができましたよね。シスターフッドとかフェミニズムとか、社会に対する意識がコロナ禍後にいっそう高まった気がするんです。
今やることが必然だと思えるし、思ってしまえばいい。意識ってエネルギーなので、ものすごく伝わるから。今が最高だと思って見せられるものと、いや、なんか遅くなっちゃったんですよねって見せられるものとでは、見る側にも必ず伝わると思うから。
ピエタ
東京公演
期間:7月27日〜8月6日
場所:本多劇場(愛知、富山、岐阜公演あり)
原作:大島真寿美「ピエタ」(ポプラ社)
脚本・演出;ペヤンヌマキ
出演:小泉今日子、石田ひかり、峯村リエほか
公演およびチケット等の詳細は
https://asatte.tokyo/pieta2023/
2023.06.02(金)
文=和田紀子
撮影=平松市聖